水墨画の魅力は白黒だけじゃない!墨色の濃淡は色以上に語ります

こんにちは
水墨画作家のCHIKAです。

いきなりですが

①日本人が好きな色をご存知ですか?

②水墨画で表現される色の中で
“調和に導く”色って
何色のことを指していると
思いますか?

水墨画の色の濃淡を考えた時、
日本人の色に対する感覚と
共通する何かがあるかもしれない。
と考えました。

というわけで今回は
墨の濃淡が作り出す
中間色に着目して

黒色白色のことを
書いてみたいと思います。

目次

【水墨画の魅力】モノクロームの印象

周文 四季山水図屏風/東京国立博物館所蔵

[水墨画の魅力]モノクロで無になる

こんな話を思い出しました。

ある方がお世話になった
医師にお礼を込めて
屏風仕立ての山水画を
プレゼントしました。

後日、医師はその方に
語ったそうです

「時に何もかもリセットしたい
と思うことがあります。
そんな時は一人籠って
あの屏風を広げています。

何も考えずに眺めてると
頭が空っぽになったようで
スッキリします」と

禅の境地だな~

と思えるような話でした。

[水墨画の魅力]モノクロの表現方法

水墨画もモノクロームの写真他も
これから作品にしようと
している現実の対象物は
カラーの世界です。

作者の目に映っているのは
無彩色ではありません。

作品にするために
むしろ、わざわざ色を
取り去ってしまって、
架空の時間、空間、場所を
作り出していることになります。

いえ、写真ならばそうですが、
水墨画の世界では
一旦、自分の目で見たものを
自分の中に取り入れて、

作りたい世界に再構成しなおす

そこでいらない情報を
頭の中で削除するわけです。

その時多分に
心情とメッセージ
込められることになります。

[水墨画の魅力]余白と濃淡

何と言っても水墨画の
画面を際立たせるのは

黒色の実と白色の虚

この対比とバランスによって
余計なものを描かなくても
見る人の想像の幅を広げて
くれるのです。

そして濃淡の変化をつけることで
明暗、質感、奥行きetcを
表現することになります。

鑑賞者にとっては
そのような描き手の意図する
細部がわからなくても

画を見るだけで
感じ取るものは
きっと多いはず

と思うのですがいかがでしょうか?

【水墨画の魅力】黒という色


人間が始めて作り出した
黒色はです。

中国では“墨の中にすべての
色が含まれている”と説きました。

黒色は光を反射することなく
全ての色を吸収します。
全ての色相が集まった色ゆえに
多様な変化を見せる色です。

強さや権威を感じさせる
色でもあります。

【水墨画の魅力】白という色


水墨画で白を言うならば
余白(描かないこと)
なるでしょう。

中国では五行思想から
白は金に対応します。

白を尊ぶ思想もありましたが、
衣服に関しては凶色で、
中国人の好む赤とは全く
反対にある色です。

いっぽう日本人は
白色を好む民族です。

古代神話信仰により
神に捧げる清らかで
穢れのないもの
という意味にも使われ、

清潔感、信頼感を
想像させる色です。

【水墨画の魅力】灰色という色


灰色は水墨画の表現の中で
なくてはならない色です。

灰色は墨の濃淡
作り出される変化の色です。

自己主張せず、逆に
相手の個性を強調し、
全体的に調和に導く
役割を持った色です。

あいまいとも
表現されますが、
相手を受け入れる
豊かな色なのです。

【水墨画の魅力】言葉で表現する


墨に五彩あり
墨に七彩あり

というのは墨の濃淡、
墨色を表す言葉です。

中国では「五墨六彩
と表現するようです。

五墨
焦・濃・淡・干・湿
六彩
黒・白、干・湿、濃・淡

墨の濃さ、水の量の
割合を調節して濃淡を
作るので、その割合で
さまざまな墨色が
出来るわけです。

それは色彩質感
重量感、距離感
などを感じさせる
豊かな色になります。

【水墨画の魅力】墨色は自然色


世の中、人工的な色が
氾濫しています。

現代人は皆、
スマホに夢中です。

日常の生活の中で
全くの自然の色を探すのが
難しくなってきています。

人工的な色は
「時に精神を疲弊させる
一要素となる」

とどこかの本の
見出しにありました。

ちょっと怖い文言ですが、

たまに花を愛でたり
自然の色を楽しんだりすると
生き返る気がしますよね。

日常的に意識したほうが
良いことかもしれません。

水墨画の色使いは
基本的に墨色だけです。

墨色という自然からの
恵みの色が心理的にも
精神的にもなにかしら
良い影響を与えることは
考えられることだと思います。

[水墨画の魅力]白、余白の考え方

[水墨画の魅力]白の顔料

かねてから不思議に
思っていたことがあります。

白黒芸術なのに、
白という顔料を
使わないのはなぜだろう?

胡粉(白の顔料)を
多用していた時代も
あったようですが
基本は使いません。

[水墨画の魅力]余白の考え方

余白は描かないこと
空間=余白も意味がある

というのが水墨画の
基本的考え方です。

例えば
花と蝶々を描いたとします。
あとは空白です。

この空白が空になるか
森になるか海になるか

見る人の想像によって
補われます。

水墨画は画面いっぱいに
塗りつぶす描き方はしません。

常に余白に面白さがあるんです。

余白を効果的に残すことで
黒すなわち描きたい
対象物が活きてきます。

【水墨画の魅力】黒白を生かす構図


墨の濃淡や黒白の対比を
画面に活かすためには
構図も大切になってきます。

例えば抽象的に
描こうと思います。

下描きは頭の中だけ。

画用紙ほどの大きさに
まず濃墨の点を落とします。
そのあと抽象的に描いて
いきたいと思います。

あなたなら最初どの位置に
筆を入れますか?

そう考えると
なかなか一点を落とすのに
迷いが出て
難しいものに
なってきませんか?

構図によって与える印象も
がらりと変わってきます。

構図は作品を大きく
左右するものゆえに、
絵を描くものにとっては
悩みどころのひとつです。

構図についての
いろいろな工夫や
効果的な構成方法は
また別記事で書きたいと
思います。

では次に
古代から江戸時代まで
墨色を中心に
日本人が築いてきた色を
見てみたいと思います。

【水墨画の魅力】黒色の原点


先史時代の人たちは
黒い闇を恐れることで
火を使うことを覚えました。

その炎から出る煙によって
煤がたまる。そのを集めて
塗れば、模様や文字が書ける。

こうして闇を恐れながらも
身を守るおまじない
などとして生活に
取り入れてきました。

【水墨画の魅力】黒/陰陽五行思想


日本では5世紀頃に
中国文明の影響が色濃くなり、
陰陽五行思想」が広まりました。

「陰陽五行思想」とは
人間が生きていく中で
天地に対する畏敬の念が
込められた自然崇拝から
生まれた思想のことです。

木、火、土、金、水を
地球上の基本的な構成の
五元素としています。

ちなみに
馴染みのある干支の考えも
この五行説からきています。

色彩に照らし合わせると

木=  色の3原色
火=   〃
土=   〃
金=
水=

聖徳太子が制定した
「冠位十二階」は
五行思想が元になります。

位=身分を色で表しました。

黒は最も低い位の色でした。

[水墨画の魅力]黒白もまとった

[水墨画の魅力]自然界の色をまとう

遣唐使が廃止され、
国風文化が花開くのが
平安中期頃のことです。

王朝貴族たちは
移ろう自然を
格好の学びとして
自然色の感覚を
身につけました。

それだけでは飽き足らず
競って自然色を
身にまといました。

王朝貴族の色彩美が
あればこその
染色技術の進歩です。

[水墨画の魅力]鈍色という墨色

平安時代の貴族たちは
その華やかな色彩の中で

黒色も白色も中間色も

また自然の色として
表現していました。

「源氏物語」の中の
いくつかの帖に出てきます。

鈍色にびいろ

という色で、そのいずれも
近しい人の不幸か
喪に服する時に
着用しました。

白に近い淡い色から
かなり濃い色まで
染色したようですが、
この頃はまだ
真っ黒い黒色
ではありません。

[水墨画の魅力]白色の捉え方

白はというと冬に白を着る
“氷の襲”や“雪の襲”
といった衣装が
往時の貴族の間では
あったようです。

明治時代に入るまでは
白色は喪服の色でも
ありました。

[水墨画の魅力]華麗な武士たち

王朝貴族の存在によって
格段に上がった染色技術は
のちの武士たちにも
影響を与えました。

源平時代の衣装や甲冑には
貴族たちの愛した色が
さらに工夫を凝らして
引き継がれていきます。

紅色や茜色に身を包んだ
武士たちが一騎打ちに
臨んだ時代です。

引用:「屋島の義経」松岡映丘/文化遺産オンラインより

王朝貴族も源平時代の武士たちも
“移ろい”“はかなさ”
彼らの生きる時代の
底に流れるテーマになっています。

ハッキリした色使いよりも
移ろう微妙な色彩の変化を
多用したことが、
そのことを物語っている
ように思えます。

【水墨画の魅力】鎌倉武士の黒


平安時代末期に台頭する
色鮮やかな武士の
いでたちとは対照的に、

鎌倉時代の武士は
強さと権力を誇示するように
鎧にも黒を多用しています。

この黒は漆黒色
漆に墨を混ぜた
つややかな黒です。

この時代に水墨画が
禅宗と共に入ってきました。

【水墨画の魅力】寂の精神から


次の室町時代も
武士の時代が続きます。

禅宗を取り入れた室町時代は
“寂”の精神
中心思想となった時代です。

茶の湯、俳諧などの
文化芸術の底に流れる
基本精神でもありました。

寂とは
古びて趣があること
枯れて渋みがあること
と辞書にはあります。

余分なもの、色を使わないで
表現する水墨画はまさに
わびさび精神を形に表した
表現方法です。

【水墨画の魅力】灰色は寂を表す


水墨画の観点から
“寂”を色で表すとすると

灰色

つまり自然界の色
(木、土、石など)
に馴染んだ落ち着きのある
中間色になります。

それは
“受け入れる”
豊かな色と言えます。

「白か黒か」の
両極の中に灰色があると
それぞれ相手の個性を
引き立たせます。

白も黒も引き合って
調和に導く役割を
持っているからです。

水墨画もただ単に
白と黒だけの色使いであれば
精神的に安らぐ表現には
ならないことでしょう。

【水墨画の魅力】底に流れる墨色

狩野永徳筆 唐獅子図 宮内庁三の丸尚蔵館

[水墨画の魅力]黄金の時代

安土桃山時代は
室町時代とは一変した
黄金の時代でした。

美術史的に見れば
豊臣秀吉が政権を握って
豊臣家が滅亡に至るまでに
当たります。

信長や秀吉の居城の
内部を飾ったのは
大画面の金碧障壁画です。

その権力者の要望に
答えていったのが
室町水墨画を継承する一派、
狩野派でした。

大和絵と水墨画を
融合させた絵画を
生み出しました。

彼らはまた
権力者と同等あるいは
それ以上に権力を持った寺院にも
水墨画の障壁画や
襖絵を数多く残しています。

[水墨画の魅力]金色も漆黒色も

この時代にもうひとつ
対照的な色に漆黒があります。

漆に墨を混ぜて作ります。

その黒漆の上に金粉が蒔かれ、
漆黒と金色の対比が
非常に美しい工芸品になります。

蒔絵です。

秀吉の妻ねねが愛した装飾品です。

[水墨画の魅力]ひとつの到達点

長谷川等伯 松林図屏風(左隻)

[水墨画の魅力] 等伯「松林図屏風」

国宝「松林図屏風」を
ご存知の方は多いはず。

近年、小説にもなった
長谷川等伯の作品ですが、
実は草稿の段階らしく、
完成作品ではないようです。

濃い霧に見え隠れする松林を
荒く激しい筆のタッチで
大胆に描き、
また静寂が見るものを
霧に霞む松林に引き込んでいく。

墨の濃淡の変化が美しく
これぞ日本の水墨画!
と思わせる作品です。

長谷川等伯の大胆で
さまざまな挑戦が
のちの琳派にも影響を
与えていきます。

[水墨画の魅力]琳派の水墨作品

江戸時代初期(17C)から
本阿弥光悦俵屋宗達によって
琳派という私淑による流派が
始まりました。

光悦は書家でもあり
宗達は扇屋を営む絵師。

富裕層との繋がりを持ちながら
美の改革ともいえる
絵画・工芸を
作り出していきます。

宗達は、日本画・水墨画でいう
「たらし込み」という
技法を生み出します。

これはにじまない紙を
使って表現される技法です。

水墨画作品を描くのに
この当時はまだ
滲む紙はほとんど
使われていなかったようです。

[水墨画の魅力]質素倹約の時代

引用:国芳 「荷宝蔵壁のむだ書」/ウィキペディアより

江戸時代も
18世紀に入ると
質素倹約の日々 です。

人々は奢侈禁止令
苦しみ続けます。

そんな中でも次々と
色を生み出していきます。

“四十八茶百鼠”

茶色や灰色にいろいろな
色相を混ぜて
百種類以上の色を
生み出しています。

江戸の粋

と言われる庶民の
色への欲求が
形になった結果です。

のちの世から見ると
倹約令があったからこそ
染色技術の向上に
つながった、と無理無理ですが
考えたいところです。

庶民の叡智の結晶ですから。

[水墨画の魅力]中国趣味の時代


江戸時代中期以降には
文人画煎茶など
中国趣味が流行します。

中国の文人に
憧れた絵師たちが
日本的解釈で
南画(文人画)
描き始めます。

気韻生動、写意を第一に
ぼかしやたらし込みを
使って描くのは、
水墨画と同じです。

伊藤若冲はほぼ同時期に
ほとんど独学で
水墨画にも挑戦しています。

彼がはじめて滲む紙を
使い始めたと言われています。

中国の宣紙を使って
「筋目書き」という
紙の特徴を生かした
描き方を編み出しています。

やがて時代は幕末へと進み、
日本の絵画工芸にも
全く異質の西洋画の技法が
取り入れられていきます。

[水墨画の魅力]墨色の変化は語る


ザックリと江戸時代後期まで
日本人が築き上げた
色を見てきました。

大雑把に見て鎌倉時代、
室町時代、江戸時代に
モノトーンが流行っています。

背景の違いはありますが、
いずれの時代も
武士の時代です。

明日の命の保証がない
武士たちが愛した色は
全ての色を含んだ
力強い精神性の色でした。

また権力者に従いながらも
反骨精神で存在感を示した
庶民たちもまた
質素な色=無彩色を中心に
豊かな色を生み出していきました。

墨の文化は筆記材料から
出発してさまざまな文化を
生み出していきました。

中国から学びましたが、
日本人の自然に対する
鋭い感覚があってこその
発展だと思います。

墨色は
静かに柔軟に、
軽重取り混ぜて
そのことを語って
くれています。

おわりに

今回は水墨画の色について
書いてみました。

では冒頭の質問の回答です。

①日本人が好きな色をご存知ですか?

②水墨画で表現される色の中で
“調和に導く”色って
何色のことを指していると
思いますか?

答えは
①は白色
②は灰色

です。詳しい内容は
この記事のどこかで
語ってます。

最後までお付き合いいただき
ありがとうございました。

[水墨画の魅力]年表

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

ABOUT US

はじめまして 水墨画作家のCHIKAです。ある日突然、日本人の大切にしてきた美意識に目覚めました。中でも水墨画の面白さにハマってウン十年。独学で学んだ経験を活かし、全くの独学でも楽しめる方法を日々trial and error で実践中。趣味は自然観察、美術鑑賞、茶道etc 京都生まれ