こんにちは
水墨画作家のCHIKAです。
水墨画は読んで字のごとく
水と墨の画です。
初心者の時は
「にじみがあると難しくて
描けない・・・」
と思いがちです。
ほとんどの方が
そこで滲みを敬遠されます。
水と墨の画を楽しむのに
滲みを敬遠したら
もったいない!です。
滲み・ぼかし・かすれと
美しい薄墨の変化がわかる
紙を知って試してみたいと
思いませんか?!
そんな水墨画に適した紙に
渾身の一滴を落として
あなただけのオリジナルな
画が完成したら・・・
きっと滲みへの抵抗が
少しでも薄れると思います。
そう、期待したいところです。
今回は水墨画に適した紙には
どんなものがあるのか?
自分で選ぶ時の参考にもなる
宣紙、和紙のことを書こうと思います。
目次
水墨画初心者/紙の歴史をサラッと
[水墨画]中国での発明
世界最古の紙は中国甘粛省で
発見されています。
そこには前漢時代の地図が
描かれていて紀元前150年頃のものと
推定されています。
ビックリですね!!
その後ずっと時代は下って
西暦105年頃に蔡倫という
後漢時代の役人が
樹皮や麻のボロきれ他を使って
紙を作り、皇帝に献上した。
と「後漢書」(歴史書)に
記述があります。
それ以降、
記録用媒体として
竹簡や木簡に替わって
どんどん普及改良を
重ねていくことになります。
盛んに作られる一方で
紙を裏返して使うように
奨励したり、古紙を
漉き直して使ったりして
すでにその頃から
資源を無駄にしない
考えを中国人は持っていました。
中国で発明された紙の技術は
イスラム世界へは8世紀頃、
ヨーロッパ世界へは12世紀頃
伝搬していくことになります。
[水墨画]日本への伝搬
日本へは7世紀には
中国から伝搬しています。
すでに紙漉きが行われていた
という説もあるようですし
この辺りはこれからも
新説は出てきそうです。
当初使われていた材料は
麻
その後、楮や雁皮などが
使われるようになりました。
紙が高価なのは日本も同じ。
当初からリサイクルの考えで
漉き直しして古紙を
再利用していたようです。
水墨画初心者/欠かせない紙
[水墨画]パフォーマンスアート
中国で水墨画が盛んに
描かれるようになったのは
唐時代の後期です。
撥墨法という表現法が
一世を風靡し、、
次の時代の宋時代には
着色画を凌ぐほどに
なっていきます。
この“撥墨法”ですが、
これこそ今に伝わる
水墨画の描き方に繋がります。
画面に墨をぶちまけたり
墨を磨りつけたりして、
最後に筆を加えると
まあ不思議
山やら谷やらに
見えてくる、という
パフォーマンス的アートです。
それを生み出すのに
紙が一役も二役も
担ったのではないでしょうか。
かの雪舟も海を渡り
明時代の中国から
この撥墨法を
我が国に持って帰ってきました。
[水墨画]アートの自由さ
こうして偶然的に
生まれた絵画表現ですが、
従来の表現とうまく
折り合いをつけながら
定着していき、いつの間にか
古典となっていきます。
新素材の画材が
どんどん生み出されて
いるのですから、
水墨画表現もいつまでも
「・・・でなければならない」と
固定化せず、自由な発想が
生まれてきても
全く不思議ではありません。
さてほんの少し紙の歴史を
見てきたので、
次は先人の残してくれた
素晴らしい紙漉きの技術に
少しでも触れて、
本題の水墨画に適した
紙のことについて
書きたいと思います。
水墨画初心者/紙の産地
中国の紙は“宣紙”(別名:本画宣)
日本の紙は“和紙”(和画仙)
と区別しています。
[水墨画]中国“宣紙”の産地
中国安徽省宣城地域=現在の「烏溪」に
限定されます。
ごく限られた紙になります。
[水墨画]日本の主な和紙産地
日本三大和紙は
越前和紙(福井県)
美濃和紙(岐阜県)
土佐和紙(高知県)
他に
甲州和紙(山梨県)
小川和紙(埼玉県)
因州和紙(鳥取県)
石州和紙(島根県)
阿波和紙(徳島県)等
水墨画初心者/紙の原料は何?
[水墨画]中国宣紙の原料
青壇皮(せいだんぴ)と稲藁(いなわら)です。
青壇皮は楡科の落葉樹。
稲藁は安徽省の周辺農家から
採れる日本より大型の稲。
[水墨画]日本の紙の原料
日本の紙の三大原料
◎楮(こうぞ)
日本の紙のほとんどは
楮が原料。繊維が太く長く
絡みやすい。
強靭で破れにくい。
◎三椏(みつまた)
繊維は細い。
紙幣にも使われるくらい
強靭で虫害にも強い。
◎雁皮(がんぴ)
自生の自然種のため
処理に手間がかかる。
繊維が細く薄い。
★麻(あさ)
古代から紙の原料とされる。
繊維は強靭で紙魚に強い。
★古紙
一般的な和画仙紙の原料。
平安時代から再生利用の
体制が成立していた
★稲わら、麦わら
★木材パルプ
★竹
他、さまざまな紙材が
用いられています。
例えば
因州画仙は木材パルプと
稲わら・麦わら
甲州画仙は古紙(三椏)と
稲わら
阿波和紙は竹と木材パルプ
などなど
書画、版画、修復作業、
印刷にも適するように
伝統的原料と技法を駆使して
進化しながら
各地で作られています。
水墨画初心者/中国本画宣とは
定められた地域と伝統的な手法で
漉かれた紙であること
が条件付けられます。
そのため、“宣紙”と名乗れるのは
ごく限られた紙だけとなります。
その“宣紙”の代表格とされるのが
国営工場で作られる「紅星牌」です。
[水墨画]紅星牌の特長
- 特定の原料
安徽省宣城市で採れた
青壇皮が最良とされています。
稲藁は安徽省周辺で採れる
“砂田稲藁”のみ使われます。 - 伝統的な作り方
複数のベテラン紙漉き職人が
呼吸を合わせて紙を漉く
という方法です。
熟練の技が必要とされるので
生産が限られています。 - 墨のにじみが美しい
腐りにくく虫がつきにくいので
長期に保存が可能とされています。
それゆえ、何千年ものあいだの
書画の名作には宣紙が使われている
とされます。
[水墨画]本画宣(紅星牌)の種類
一口に本画宣と言っても
漉き方や原料の配合によって
様々な種類があり、特長があります。
わかりやすい違いとしては
滲みやすいか滲みにくいか、
厚手なのか薄手なのかです。
- 棉料は、青檀皮30%・稲藁70%
藁の配合が多いため滲みやすい - 浄皮は、青檀皮40%・稲藁60%
棉料よりも滲みは少なく薄くても丈夫
漉き方の違いとしては、
- 重単宣 単宣を少し厚めに漉いている
- 夾宣 単宣を2枚合わせた程度の厚さがある
- 二層(三層) 夾宣を二枚(三枚)
重ねにし一枚にして乾燥させる
棉料単宣(めんりょうたんせん)
浄皮単宣(じょうひたんせん)
浄皮羅紋(じょうひらもん)
棉料綿連宣(めんりょうめんれんせん)
棉料重単宣(めんりょうじゅうたんせん)
棉料夾宣(めんりょうきょうせん)
棉料二層夾宣(めんりょうにそうきょうせん)
棉料三層夾宣(めんりょうさんそうきょうせん)
中でも日本で本画宣として
人気が高いのが
“棉料四尺単宣”です。
稲藁の割合が青壇皮よりも
多いため滲みが多くなります。
薄くて破れやすいので
初心者向きではありません。
逆に、紙が厚くなると
墨が横に広がらない分、
滲みが少なくなり
墨色に奥行きが出ます。
2層、3層に紙を重ね合わせ
1枚の紙にすることで
力強い表現の出来る
紙になります。
[水墨画]玉版宣(玉版箋)とは
もう一つ書家や水墨画家に
愛されている紙に
玉版宣(玉版箋)があります。
現在では漉き方や加工の
違いがあるようですが、
本来のものは“紅星牌四尺棉料単宣”の
二層紙に玉版加工を施したものを
言うそうです。
玉版加工とは、動物の歯や
天然素材の玉(ぎょく)を
滑らかに加工したものを使って
紙面を繰り返し磨って
磨き上げる方法のこと。
描き心地は滑らかですが、
滲みは少ない紙です。
水墨画初心者/日本の水墨画紙の種類
和紙は様々な紙材を使用して
作られています。
中でも水墨画用として
使いやすいとされているのは、
- 画仙紙
墨の滲み方や撥墨が美しく
濃淡がよく表現できる。
紙が薄いため筆足がつきやすく
初心者には扱いが難しい紙。 - 麻紙
画仙紙と違って
墨の重ね描きができ
筆足がつきにくい。
独特のにじみが美しい。 - 玉版箋
撥墨がよく、墨の濃淡の
変化が美しい - 唐紙
画仙紙ほどの滲みはないので
稽古用に適している。 - 鳥の子
卵色の厚手の和紙。
表面に光沢があり、
襖や屏風に使われる。
滲みはない。 - 神郷紙
楮のみで漉かれている。
白色で滲む和紙
水墨画初心者/手漉きと機械漉き
[水墨画]手漉きとは
文字通り、手で漉いた紙のこと。
もともと中国から習った技法を
独自に変化発展させて今日に
至っています。
中国では「溜め漉き」主流
日本では溜め漉きから
始まって現在では
オリジナルな
「流し漉き」が主流です。
水墨画の紙として見る場合も
この辺に特徴が表れるようです。
いくつもある作業工程は
真冬に行なわれています。
「紙は寒漉き」と言われ、
質の良い紙を漉くのに
好条件が揃っているためです。
腐敗や菌の心配もなく
農家の人たちの農閑期の
作業でもありました。
熟練の技がものを言う
世界でもあり、後継者不足も
切実な問題です。
[水墨画]機械漉きとは
大きな機械を使って
効率的に大量生産しています。
当然、手漉きの材料では
追いつかないため、安価な
木材パルプが主原料となります。
[水墨画]手漉きと機械漉きの違い
- 手漉きには紙の裏面に
刷毛目のあとが見られますが、
機械漉きはその工程上、
刷毛目は見られません。 - 紙のサイズが違います。
- 機械漉きは大量生産が可能です。
水墨画初心者/滲む紙と滲まない紙
[水墨画]滲む紙
何も加工していない
漉いたままの紙を
「素紙そし」または「生紙きがみ」と言います。
このままの状態で使用すると
よく滲みます。
素紙を使うようになったのは
江戸時代、18世紀後半の頃です。
伊藤若冲が素紙を使って
水墨作品を描き始めました。
[水墨画]滲まない紙
それまでは“陶砂(ドーサ)すき”
と称される加工紙を使うのが
一般的でした。
こちらは全く滲まない紙です。
・・・・・
書作品や日本画などを描く時、
作家の好みやその時々の作風により
紙・布などのにじみを
無くしたい場合があります。
紙・布などの「にじみ=滲み」を止める方法は
色々ありますが、一番多く利用されるのが
「ドーサ(土砂)引」です。
※ドーサ引(土砂引)
⇒ 「焼明礬と膠とを混合した液」を
紙・布などの対象物に塗布する【作業】を指します。引用元:書道 有限会社みなせ
滲まない紙を使っての
水墨画表現としては
“たらし込み”
がよく使われる技法です。
水墨画初心者/和紙と洋紙の違い
昨今は水墨画も
洋紙を使って描かれる作家さんが
増えているようです。
滲みがなく扱いやすいし
現代風の描き方が映えます。
技法が水彩画に近いから
というのもあるかもしれません。
洋紙の原料は木材パルプです。
大量生産が目的で
印刷に向いた紙に
改良が進められました。
そのため
滲みを押さえるために
薬品が使われたので、
和紙よりはるかに
寿命が短い酸性紙と
なりました。
現在ではまた改良され
中性紙が主流となっています。
和紙の寿命は千年を越えますが、
洋紙の寿命は酸性紙で100年ほど。
中性紙で300年ほどです。
水墨画初心者/世界に愛される和紙
本物の和紙は薬剤を
一切使用せずに処理され
漉かれているので
長く良い状態で保たれるのです。
海外でも絵画、書物、
仏像他の修復に
日本の和紙が使われています。
手漉きだからこそ
1000年経っても
変わらない質を保てるのです。
魅力の尽きない
手漉き紙の世界です。
水墨画/初心者向けの水墨画紙
和紙や宣紙に限って
選ぶのであれば
初心者の方はやはり
ある程度の紙の厚みがあり、
滲みの少ない紙が
使いやすいでしょう。
“初心者の方の道具の揃え方”
紙の選び方はコチラ ⇩
気兼ねない値段の範囲内で
枚数があればなお良いですね。
滲みを生かすのか、それとも
滲みを押さえて描くのか
それによっても
選び方が変わってきます。
上記の紙質を参考に
専門店で相談されると
よいと思います。
どんなものを描きたいかを
伝えることで
最適な紙をアドバイス
してもらえます。
水墨画初心者/紙の保存方法
墨などと同様、湿気を嫌います。
直射日光を防ぎ
中性紙や油紙に包んで
保管しましょう。
防湿性・耐油性・耐水性があり、
安心です。
リンク
押入れで保管する場合は
高いところに置きましょう。
湿気は下の方に
溜まりやすいためです。
長期に保存する場合は
防虫剤や
除湿剤を入れると
効果あります。
水墨画初心者/失敗した紙、風邪ひき紙
[水墨画]失敗した紙
失敗した紙は
捨てずにまとめて
おきましょう。
試し描きに使ったり
作品の余分な水分を
吸い取ったり、
墨が付いているので
匂いも取ってくれます。
和紙の活躍の場は広いです。
[水墨画]風邪ひいた紙の状態
白い斑点が出ると、
墨がのらない状態に
なっています。これを
“紙が風邪ひいた”
と言います。
高温多湿の環境で
長期間保存すると
このような状態になります。
このような斑点を見つけたら
稽古用に使うなどして
作品用としては避けましょう。
そして、正常な紙と
風邪ひいた紙を分けて
保管するようにしましょう。
水墨画初心者/紙の切り方
紙切り専用のナイフが
市販されています。
カッターナイフでは
刃が鋭すぎて
うまく切れません。
先が丸くなっているため
裁断がスムーズです。
今後、いろいろなサイズの
作品制作の際には
ナイフは必需品になります。
水墨画初心者/自分好みの紙と出会う
今回は水墨画の特徴でもある
滲みを表現するのに
最適である宣紙と
和紙について書きました。
自分のアートを表現するのに
宣紙(和紙)に
こだわる必要はありません。
しかし、これほど
素晴らしく面白い紙を
使わないというのも
実にもったいないと
個人的に思ってます。
奥が深すぎる紙ですが
決して扱いづらいものでは
ありません。
まずは滲みの少ない紙に
慣れることから始めて
「好みの紙」を
見つけていきましょう。
専門店で目的や用途を
伝えてアドバイスしてもらうと
早く選択することができます。
紙の見本帳が無料、有料で
専門店にて求められます。
一つの紙を使い続けて
研究し、段階的に共通・相違を
発見しながら「自分好み」を
見つけていく、ちょっと
気長な方法もあります。
まとめ
② 水墨画は滲む紙だからこそ面白い
③ 紙の種類と選び方、扱い方を知って
「自分好み」を見つけていこう