水墨画初心者のための道具の扱い方|にじむ紙だからこそ面白い

こんにちは
水墨画作家のCHIKAです。

水墨画は読んで字のごとく
水と墨の画です。

初心者の時は
「にじみがあると難しくて
描けない・・・」
と思いがちです。

ほとんどの方が
そこで滲みを敬遠されます。

水と墨の画を楽しむのに
滲みを敬遠したら
もったいない!です。

滲み・ぼかし・かすれと
美しい薄墨の変化がわかる
紙を知って試してみたいと
思いませんか?!

今回は初心者の方にも知ってほしい
水墨画に使う紙のことを
選び方だけでなく、歴史、保存方法まで、
深堀りしたいと思います。

▶こちらの記事では、初心者向けに
分かりやすく、紙の選び方をまとめています。⇩

【水墨画】初心者は書道半紙でOK?にじみを活かす紙の選び方

水墨画初心者/紙の歴史をサラッと

[水墨画]中国での発明

世界最古の紙は中国甘粛省で
発見されています。
そこには前漢時代の地図が
描かれていて紀元前150年頃のものと
推定されています。

ビックリですね!!

その後ずっと時代は下って
西暦105年頃に蔡倫という
後漢時代の役人が
樹皮や麻のボロきれ他を使って
紙を作り、皇帝に献上した。

と「後漢書」(歴史書)に
記述があります。

それ以降、
記録用媒体として
竹簡や木簡に替わって
どんどん普及改良を
重ねていくことになります。

盛んに作られる一方で
紙を裏返して使うように
奨励したり、古紙を
漉き直して使ったりして

すでにその頃から
資源を無駄にしない
考えを中国人は持っていました。

中国で発明された紙の技術は
イスラム世界へは8世紀頃、
ヨーロッパ世界へは12世紀頃
伝搬していくことになります。

[水墨画]日本への伝搬

日本へは7世紀には
中国から伝搬しています。

すでに紙漉きが行われていた
という説もあるようですし
この辺りはこれからも
新説は出てきそうです。

当初使われていた材料は
麻

その後、楮や雁皮などが
使われるようになりました。

紙が高価なのは日本も同じ。
当初からリサイクルの考えで
漉き直しして古紙を
再利用していたようです。

水墨画初心者/欠かせない紙

[水墨画]パフォーマンスアート

中国で水墨画が盛んに
描かれるようになったのは
唐時代の後期です。

撥墨法という表現法が
一世を風靡し、、
次の時代の宋時代には
着色画を凌ぐほどに
なっていきます。

この“撥墨法”ですが、
これこそ今に伝わる
水墨画の描き方に繋がります。

画面に墨をぶちまけたり
墨を磨りつけたりして、
最後に筆を加えると

まあ不思議

山やら谷やらに
見えてくる、という
パフォーマンス的アートです。

それを生み出すのに
紙が一役も二役も
担ったのではないでしょうか。

かの雪舟も海を渡り
明時代の中国から
この撥墨法を
我が国に持って帰ってきました。

引用:「破墨山水図」雪舟/ウィキペディアより

[水墨画]アートの自由さ

こうして偶然的に
生まれた絵画表現ですが、

従来の表現とうまく
折り合いをつけながら
定着していき、いつの間にか
古典となっていきます。

新素材の画材が
どんどん生み出されて
いるのですから、

水墨画表現もいつまでも
「・・・でなければならない」と
固定化せず、自由な発想が
生まれてきても
全く不思議ではありません。

さてほんの少し紙の歴史を
見てきたので、
次は先人の残してくれた
素晴らしい紙漉きの技術に
少しでも触れて、

本題の水墨画に適した
紙のことについて
書きたいと思います。

水墨画初心者/紙の産地


中国の紙は“宣紙”(別名:本画宣)
日本の紙は“和紙”(和画仙)
と区別しています。

[水墨画]中国“宣紙”の産地

中国安徽省宣城地域=現在の「烏溪」に
限定されます。
ごく限られた紙になります。

[水墨画]日本の主な和紙産地

日本三大和紙は
越前和紙(福井県)
美濃和紙(岐阜県)
土佐和紙(高知県)

他に
甲州和紙(山梨県)
小川和紙(埼玉県)
因州和紙(鳥取県)
石州和紙(島根県)
阿波和紙(徳島県)等

水墨画初心者/紙の原料は何?

[水墨画]中国宣紙の原料

青壇皮(せいだんぴ)と稲藁(いなわら)です。

青壇皮は楡科の落葉樹。

稲藁は安徽省の周辺農家から
採れる日本より大型の稲。

[水墨画]日本の紙の原料


日本の紙の三大原料

◎楮(こうぞ)
日本の紙のほとんどは
楮が原料。繊維が太く長く
絡みやすい。
強靭で破れにくい。

◎三椏(みつまた)
繊維は細い。
紙幣にも使われるくらい
強靭で虫害にも強い。

◎雁皮(がんぴ)
自生の自然種のため
処理に手間がかかる。
繊維が細く薄い。

★麻(あさ)
古代から紙の原料とされる。
繊維は強靭で紙魚に強い。
★古紙
一般的な和画仙紙の原料。
平安時代から再生利用の
体制が成立していた

★稲わら、麦わら
★木材パルプ
★竹
他、さまざまな紙材が
用いられています。

例えば
因州画仙は木材パルプと
稲わら・麦わら

甲州画仙は古紙(三椏)と
稲わら

阿波和紙は竹と木材パルプ

などなど
書画、版画、修復作業、
印刷にも適するように
伝統的原料と技法を駆使して
進化しながら
各地で作られています。

水墨画初心者/中国本画宣とは


定められた地域と伝統的な手法で
漉かれた紙であること
が条件付けられます。

そのため、“宣紙”と名乗れるのは
ごく限られた紙だけとなります。

その“宣紙”の代表格とされるのが
国営工場で作られる「紅星牌」です。

[水墨画]紅星牌の特長

  • 特定の原料
    安徽省宣城市で採れた
    青壇皮が最良とされています。
    稲藁は安徽省周辺で採れる
    “砂田稲藁”のみ使われます。
  • 伝統的な作り方
    複数のベテラン紙漉き職人が
    呼吸を合わせて紙を漉く
    という方法です。
    熟練の技が必要とされるので
    生産が限られています。
  • 墨のにじみが美しい
    腐りにくく虫がつきにくいので
    長期に保存が可能とされています。

それゆえ、何千年ものあいだの
書画の名作には宣紙が使われている
とされます。

[水墨画]本画宣(紅星牌)の種類

一口に本画宣と言っても
漉き方や原料の配合によって
様々な種類があり、特長があります。

わかりやすい違いとしては
滲みやすいか滲みにくいか、
厚手なのか薄手なのかです。

  1. 棉料は、青檀皮30%・稲藁70%
    藁の配合が多いため滲みやすい
  2. 浄皮は、青檀皮40%・稲藁60%
    棉料よりも滲みは少なく薄くても丈夫

漉き方の違いとしては、

  • 重単宣 単宣を少し厚めに漉いている
  • 夾宣 単宣を2枚合わせた程度の厚さがある
  • 二層(三層) 夾宣を二枚(三枚)
    重ねにし一枚にして乾燥させる

棉料単宣(めんりょうたんせん)
浄皮単宣(じょうひたんせん)
浄皮羅紋(じょうひらもん)
棉料綿連宣(めんりょうめんれんせん)
棉料重単宣(めんりょうじゅうたんせん)
棉料夾宣(めんりょうきょうせん)
棉料二層夾宣(めんりょうにそうきょうせん)
棉料三層夾宣(めんりょうさんそうきょうせん)

中でも日本で本画宣として
人気が高いのが
“棉料四尺単宣”です。

稲藁の割合が青壇皮よりも
多いため滲みが多くなります。
薄くて破れやすいので
初心者向きではありません。

逆に、紙が厚くなると
墨が横に広がらない分、
滲みが少なくなり
墨色に奥行きが出ます。

2層、3層に紙を重ね合わせ
1枚の紙にすることで
力強い表現の出来る
紙になります。

[水墨画]玉版宣(玉版箋)とは

もう一つ書家や水墨画家に
愛されている紙に
玉版宣(玉版箋)があります。

現在では漉き方や加工の
違いがあるようですが、
本来のものは“紅星牌四尺棉料単宣”の
二層紙に玉版加工を施したものを
言うそうです。

玉版加工とは、動物の歯や
天然素材の玉(ぎょく)を
滑らかに加工したものを使って
紙面を繰り返し磨って
磨き上げる方法のこと。

描き心地は滑らかですが、
滲みは少ない紙です。

水墨画初心者/日本の水墨画紙の種類


和紙は様々な紙材を使用して
作られています。
中でも水墨画用として
使いやすいとされているのは、

  • 画仙紙
    墨の滲み方や撥墨が美しく
    濃淡がよく表現できる。
    紙が薄いため筆足がつきやすく
    初心者には扱いが難しい紙。
  • 麻紙
    画仙紙と違って
    墨の重ね描きができ
    筆足がつきにくい。
    独特のにじみが美しい。
  • 玉版箋
    撥墨がよく、墨の濃淡の
    変化が美しい
  • 唐紙
    画仙紙ほどの滲みはないので
    稽古用に適している。
  • 鳥の子
    卵色の厚手の和紙。
    表面に光沢があり、
    襖や屏風に使われる。
    滲みはない。
  • 神郷紙
    楮のみで漉かれている。
    白色で滲む和紙

水墨画初心者/手漉きと機械漉き

[水墨画]手漉きとは

文字通り、手で漉いた紙のこと。
もともと中国から習った技法を
独自に変化発展させて今日に
至っています。

中国では「溜め漉き」主流
日本では溜め漉きから
始まって現在では
オリジナルな
「流し漉き」が主流です。

水墨画の紙として見る場合も
この辺に特徴が表れるようです。

いくつもある作業工程は
真冬に行なわれています。

「紙は寒漉き」と言われ、
質の良い紙を漉くのに
好条件が揃っているためです。

腐敗や菌の心配もなく
農家の人たちの農閑期の
作業でもありました。

熟練の技がものを言う
世界でもあり、後継者不足も
切実な問題です。

[水墨画]機械漉きとは

大きな機械を使って
効率的に大量生産しています。

当然、手漉きの材料では
追いつかないため、安価な
木材パルプが主原料となります。

[水墨画]手漉きと機械漉きの違い

  • 手漉きには紙の裏面に
    刷毛目のあとが見られますが、
    機械漉きはその工程上、
    刷毛目は見られません。
  • 紙のサイズが違います。
  • 機械漉きは大量生産が可能です。

水墨画初心者/滲む紙と滲まない紙

[水墨画]滲む紙

何も加工していない
漉いたままの紙を
「素紙そし」または「生紙きがみ」と言います。
このままの状態で使用すると
よく滲みます。

素紙を使うようになったのは
江戸時代、18世紀後半の頃です。

伊藤若冲が素紙を使って
水墨作品を描き始めました。

[水墨画]滲まない紙

それまでは“陶砂(ドーサ)すき”
と称される加工紙を使うのが
一般的でした。
こちらは全く滲まない紙です。

・・・・・
書作品や日本画などを描く時、
作家の好みやその時々の作風により
紙・布などのにじみを
無くしたい場合があります。
紙・布などの「にじみ=滲み」を止める方法は
色々ありますが、一番多く利用されるのが
「ドーサ(土砂)引」です。
※ドーサ引(土砂引)
⇒ 「焼明礬と膠とを混合した液」を
紙・布などの対象物に塗布する【作業】を指します。

引用元:書道 有限会社みなせ

滲まない紙を使っての
水墨画表現としては
“たらし込み”
がよく使われる技法です。

俵屋宗達「犬図」一部

水墨画初心者/和紙と洋紙の違い


昨今は水墨画も
洋紙を使って描かれる作家さんが
増えているようです。

滲みがなく扱いやすいし
現代風の描き方が映えます。
技法が水彩画に近いから
というのもあるかもしれません。

洋紙の原料は木材パルプです。

大量生産が目的で
印刷に向いた紙に
改良が進められました。

そのため
滲みを押さえるために
薬品が使われたので、
和紙よりはるかに
寿命が短い酸性紙と
なりました。

現在ではまた改良され
中性紙が主流となっています。

和紙の寿命は千年を越えますが、
洋紙の寿命は酸性紙で100年ほど。
中性紙で300年ほどです。

水墨画初心者/世界に愛される和紙


本物の和紙は薬剤を
一切使用せずに処理され
漉かれているので
長く良い状態で保たれるのです。

海外でも絵画、書物、
仏像他の修復に
日本の和紙が使われています。
手漉きだからこそ
1000年経っても
変わらない質を保てるのです。

魅力の尽きない
手漉き紙の世界です。

水墨画/初心者向けの水墨画紙


和紙や宣紙に限って
選ぶのであれば

初心者の方はやはり
ある程度の紙の厚みがあり、
滲みの少ない紙が
使いやすいでしょう。

▶こちらの記事では、
“初心者の方の道具の揃え方”を
わかりやすくまとめています。 ⇩

水墨画の道具の揃え方|初心者が最初に準備する基本の道具

気兼ねない値段の範囲内で
枚数があればなお良いですね。

滲みを生かすのか、それとも
滲みを押さえて描くのか

それによっても
選び方が変わってきます。

上記の紙質を参考に
専門店で相談されると
よいと思います。

どんなものを描きたいかを
伝えることで
最適な紙をアドバイス
してもらえます。

水墨画初心者/紙の保存方法


墨などと同様、湿気を嫌います。

直射日光を防ぎ
中性紙や油紙に包んで
保管しましょう。

防湿性・耐油性・耐水性があり、
安心です。

押入れで保管する場合は
高いところに置きましょう。
湿気は下の方に
溜まりやすいためです。

長期に保存する場合は
防虫剤や
除湿剤を入れると
効果あります。

水墨画初心者/失敗した紙、風邪ひき紙

[水墨画]失敗した紙

失敗した紙は
捨てずにまとめて
おきましょう。

試し描きに使ったり
作品の余分な水分を
吸い取ったり、
墨が付いているので
匂いも取ってくれます。

和紙の活躍の場は広いです。

[水墨画]風邪ひいた紙の状態

白い斑点が出ると、
墨がのらない状態に
なっています。これを
“紙が風邪ひいた”
と言います。

高温多湿の環境で
長期間保存すると
このような状態になります。

このような斑点を見つけたら
稽古用に使うなどして
作品用としては避けましょう。

そして、正常な紙と
風邪ひいた紙を分けて
保管するようにしましょう。

水墨画初心者/紙の切り方


紙切り専用のナイフが
市販されています。

カッターナイフでは
刃が鋭すぎて
うまく切れません。

先が丸くなっているため
裁断がスムーズです。

今後、いろいろなサイズの
作品制作の際には
ナイフは必需品になります。

水墨画初心者/自分好みの紙と出会う


今回は水墨画の特徴でもある
滲みを表現するのに
最適である宣紙と
和紙について書きました。

自分のアートを表現するのに
宣紙(和紙)に
こだわる必要はありません。

しかし、これほど
素晴らしく面白い紙を
使わないというのも
実にもったいないと
個人的に思ってます。

奥が深すぎる紙ですが
決して扱いづらいものでは
ありません。

まずは滲みの少ない紙に
慣れることから始めて
「好みの紙」を
見つけていきましょう。

専門店で目的や用途を
伝えてアドバイスしてもらうと
早く選択することができます。

紙の見本帳が無料、有料で
専門店にて求められます。

一つの紙を使い続けて
研究し、段階的に共通・相違を
発見しながら「自分好み」を
見つけていく、ちょっと
気長な方法もあります。

▶スタート時にはどんな紙を使えば良いか?
迷ったら、「書道半紙」をおススメします。
この記事は、選び方をわかりやすくまとめています。⇩

【水墨画】初心者は書道半紙でOK?にじみを活かす紙の選び方

まとめ

① 紙漉きの技術は中国から日本に伝搬した
② 水墨画は滲む紙だからこそ面白い
③ 紙の種類と選び方、扱い方を知って
「自分好み」を見つけていこう

次は、この記事がおススメです。
初心者共通の悩みの“濃淡のきれいな
出し方”についてお話しています。⇩

水墨画の濃淡がきれいに出ない理由|初心者がつまずく原因と考え方

ABOUT US

はじめまして 水墨画作家のCHIKA.Nです。水墨画を独学から始め、描き続けてきた絵描きです。初心者や独学者がつまずきやすいポイントを、技法だけでなく「考え方」から伝えること。そして上達の速さより続けることを大切にお伝えしています。 水墨画を少し安心して続けられる場所として、このブログを運営しています。  京都生まれ、兵庫県在住