こんにちは
水墨画家のCHIKAです。
水墨画の参考書には必ず
“固形墨を用意すること”
と明記されてますね。
どうしてでしょう?
「お稽古のたびに時間をかけて
磨墨するのは面倒だ」
「毎日続けるのなら
手軽な墨液のほうがいい」
そう思われてる方、
きっと多いはず。
今回は水墨画ならではの
美しい墨色はどうして出るのか?
知っておきたい固形墨のこと
墨液のことを書いて
みたいと思います。
目次
【水墨画初心者】固形墨の磨り方
いきなりですが
墨を磨っていきます。
墨の磨り方の順番です。
- 硯の丘の部分に
少量の水を垂らします。
- 墨をのの字を書くように
丘の上だけで磨っていきます。 - 墨は軽く持って
墨の重みで磨るようにします。
- 墨の状態がサラサラから
ヌルヌルに変わってきます。 - さらに磨っていくと
丘の部分が乾いてきます。
この状態で濃い墨が
磨れたサインになります。
<ここポイント>
海の中に水を入れて
引きあげながら磨る方もいますが、
墨がどれだけ磨れているか
分かりづらくなります。
墨にとってはそれだけ
水につかってる時間が
長くなりひび割れの
原因にもなります。
濃く磨り上がった状態で
海に流すようにしましょう。
お稽古の時は必要な分量だけ
➀~⑤を繰り返してうみに
ためて使っていきます。
少量ならそのまま
おかの上にためて使います。
濃い墨の状態や量などを
覚えておいて
次回の参考にしていくと
無駄がなくて良いと思います。
【水墨画初心者】磨り残った墨
磨った墨はその日一日で
使い切ります。
使用する前の固形墨の状態なら
千年経っても劣化しません。
ですが防腐剤が入っていないため、
水で磨った瞬間からすぐに
劣化が始まります。
多めに磨って残った場合は
どうしましょう?
- その日のうちに
再度使うのであれば
絵皿他に移してラップをして
冷蔵庫保管しておきます。 - その日に使い切れない場合は、
勿体ないですが
捨ててしまいましょう。
夏場だと匂いも高くなります。
日をまたいだ墨のことを
宿墨と言います。
【水墨画初心者】固形墨の魅力
固形墨の魅力って何でしょう?
<固形墨>
まず固形墨と一言で言っても
種類があって原料の違いや
製造方法も違います。
昔ながらの製法ならば
手作業になるため
作業工程もたくさんあって
時間も手間もかかってます。
固形墨を磨るには
必ず硯が必要です。
この硯も天然の石ですから
産地によっても違いが生じます。
硯には鋒鋩という突起があって
その突起に粗密の差があります。
このそれぞれの素材、
煤、膠、硯、紙、水
の組み合わせに
人が磨る遅速の変化で
墨の粒子が変わってきます。
粒子が粗い細かいで
墨の濃淡の美しさが
得られることになります。
墨に五彩あり
と言われるくらい
墨色は無限の色を
生み出すことが出来ます。
中国では五彩の五は
五色を指すのではなく、
全ての色彩を表現する
意味を持っています。
<墨液>
一方、
墨液は粒子が人工的に
均一に作られています。
そして当然ですが
墨液は硯が必要ありません。
こうしてみると歴然ですね!
偶然といえば偶然に
自然の道具のコラボで
美しい墨色が生み出される。
墨を磨る時の気温の変化
なども左右するので、
条件が揃えばその時々の
美しい墨の濃淡が生まれる
ということは
同じ硯に同じ墨を使って
同じ作品を製作しても
一つとして同じ作品にはならない。
人工的なものは常に安定して
扱いやすいけれど、
常に変化している自然には
とてもかなわないのです。
原料のこと製造方法のこと
様々な厳しい条件の中でも
ずっと生き続けてほしい
墨文化です。
【水墨画初心者】固形墨の種類
固形墨の種類を
見ていきましょう。
固形墨は大きく3種類があります。
【水墨画】固形墨/油煙墨
油煙墨は植物油の煤を使用。
一般的で良質なのが菜種油です。
他には椿油、胡麻油、桐油
粒子が細かく墨の磨り口が
ツルツルと光沢があります。
【水墨画】固形墨/松煙墨
松煙墨は松の枝や皮を
燃やした煤で造られます。
もう少し詳しく言うと
“いきまつ松煙”と
“おちまつ松煙”があり、
“いきまつ松煙”は
生松の幹を削り、
滲み出た松脂から出来た煤で作る。
“おちまつ松煙”は
松脂を沢山含んだ枯枝から
出来た煤で作る。
という違いがあります。
墨の磨り口には
光沢がありません。
油煙墨に比べると粒子が大きく、
均一でないがゆえに
美しい淡墨表現が楽しめます。
淡墨では青系の色になり
水墨画に適した墨です。
『青墨』とも言われます。
また松煙墨は古くなればなるほど
青墨化が進むと言われています。
製法は中国から日本に
伝わった最古のものです。
現在では良質な松が
減ってきたことと、
製法が大変であることで
貴重な墨となっています。
【水墨画】固形墨/洋煙墨
改良煤煙墨とも呼ばれます。
鉱物油、カーボンブラックが原料。
実用的・普及品としての
用途が大きく墨の美しい
濃淡の変化は望めません。
それでも墨液よりも筆等を
長持ちさせることにおいては
洋煙墨のほうが良いようです。
【水墨画初心者】固形墨の現在
固形墨も現在では
植物性の染料を混ぜ込んだり、
顔料を混ぜ込んだものもあります。
墨を購入する一つの目安に
油煙墨は『茶墨』
松煙墨は『青墨』
と覚えて選んでいたのですが、
必ずしもこのような
分類とは限らないようです。
自然の墨の色を使いたい場合は、
メーカーに確かめて
みたほうが良いですね。
以前、墨の老舗
“古梅園”さんで購入する際、
初心者の立場で選び方の
ポイントを訪ねてみました。
「一言で言うと
お客様の好みになります」
「最初は目安で選んでいただいて、
作品に映える相性の良いものを
探して頂くのが一番だと思います。
必ずしもおススメしたものが
ピッタリくるということのほうが
稀だと思います」
非常に丁寧に親切に
お話ししていただけました。
是非参考になさってください。
【水墨画】紀州松煙墨
日本で唯一とされる
松煙墨を作られているのが、
墨工房 紀州松煙の工房代表、
堀池雅夫さんです。
現在も墨作りの工程で、
香料が配合されることが
多いようですが、
墨工房 紀州松煙さんでは、
煤と膠だけで作られています。
香料も必要ないほど
自然の松煙(煤)は、
良い香りがするそうです。
こだわり(原点)を大切に
制作されているのですね。
濃墨は焦黒(限界の濃さ)、
淡墨は明るさ、透明感が
期待出来る墨です。
また山水画には松煙墨が
使われるほど淡墨の墨色が
重要になってきます。
「五墨六彩」の世界は、
墨あればこそですね。
詳細はコチラのHPより
ご覧ください。⇩⇩⇩
【水墨画】膠は接着剤
固形墨に仕上げるには
煤に膠を混ぜて固める
ことが重要になります。
膠の主成分はコラーゲン。
牛皮、馬皮、鹿皮や骨などを
煮詰めて乾燥させたものです。
煤を固めたり安定させたり
といった役割があります。
日本では牛皮が最もよく
使われているそうです。
これも各国で使う動物に
差がありその差は食文化にある。
ということです。
興味をそそられるので
また別記事で書きたいと思います。
【水墨画】固形墨の出来るまで
固形墨(手焚墨の場合)の
出来るまでをざっくりと見て見ると
- 植物油を素焼きの皿に入れ
灯芯を燃やす。素焼きの蓋に付いた
煤を採る - 膠を長時間煮て溶解する
- 煤と膠を練り合わせる。
よく練るほど良い墨になるそうです。 - 練り上がったら香料を入れて
さらに揉み込む。 - 最後に木型に入れて成型
- 型出しされた墨は最後に
半年から1年乾燥させる。 - 乾燥後、最後の仕上げに
彩色をする
昔はすべてが手作業で
今はいくつかの工程は機械で。
それでも出来上がりに左右する
工程では手作業のようです。
【水墨画初心者】小さくなった墨
『・・・墨は愛される
ことによって身を亡ぼし・・・』
という言葉を残した書道家で
墨のコレクターさんがいますが、
小さくなった墨はどうしてますか?
【水墨画】墨ばさみ
文字通り小さくなった墨を
挟んで使います。
【水墨画】墨を継ぐ
小さくなった墨同士を接着します。
膠が接着剤の役割をします。
同じ成分どおしなので
安心ですね。
接着方法としては
接着面を平らにして
かなり濃い墨を磨ります。
ねばねば状態まで磨ると
接着力を発揮します。
面どおしくっつけます。
自然乾燥させますが、
最低3日はしっかり乾かします。
【水墨画】専用接着剤
墨専用の接着剤があります。
水溶性で墨にも硯にも
影響なく使用出来るようです。
間違っても普通の接着剤は
使わないようにしましょう!
小さくなっても折れても 墨は墨
使えるところまで
しっかり使い切りましょう。
【水墨画初心者】固形彩墨
固形の墨には色の墨があります。
彩墨です。
ごく最近のものかと思いきや、
東洋ではかなり古い時代から
存在しています。
文書記録で使われていた墨と
訂正のための赤(朱)の墨が
初期から使われていました。
様々な色目があります。
朱、赤、青、緑、黄、
紫、白、金、銀 etc
原料は顔料と膠です。
墨と同じように
硯で磨墨して使います。
ただ色目を分かりやすく
するために硯は白色の
陶器製を使用するのが良いです。
画像のようによく使う色の場合は
だんだんきれいに
取れなくなってきます。
硯もその色専用にしたほうが
良いと思います。
墨一色の画も魅力的ですが、
効果的にこのような彩墨も
使ってみると面白いですよね。
すべてに色を使ってしまうと
水墨画ではなく墨彩画に
なってしまうので、
あくまでアクセントとして
使いましょう。
【水墨画初心者】墨を楽しむ
墨はそのほとんどの
作業工程は冬です。
冬でないといけない理由は
暖かい季節だと
膠が腐敗するからです。
それを避けて10~5月までの頃、
一級品になると極寒の
2月頃作られるということです。
手作業となると厳しいですね!
ご苦労が多いことと思います。
プロ作家のように経験から
くるものが少ない初心者にとっては、
つい遠慮がちに墨液で
済ましてしまいそうですが、
創作者としては
固形墨と墨液を並べられたら
どちらを選びますか?
やっぱり固形墨は
試してみたいですよね!
たしか平山郁夫画伯の
まだ売れないころのエピソードを
本で読んだ記憶があります。
「売れてないからといって
画材を惜しむな!売れて
いない今だからこそ
高価な画材を使いこなせ!」
と師匠(先輩?)に
アドバイスされたそうです。
それに見合う作品をいつか作ろう!
と夢見ながら創作するのも
上達の第一歩なのですね。
心構えも違ってくるのは
間違いなさそうです。
それよりも何よりも
変化する墨色に
魅了されずにはおられません。
【水墨画初心者】墨液について
最後に墨液のお話です。
墨液は膠が少なくて
防腐剤が入っています。
腐りにくいのと
墨を磨る手間が省けます。
イベントなど大量に使う時、
時間がない時には重宝します。
【水墨画初心者】墨液のタイプ
天然膠性と合成樹脂性があります。
【水墨画】天然膠タイプ
固形墨と同じように
さらっとした描き心地
固形墨と合わせて
使うことが可能。
乾きが遅い
天然の膠を使っているため、
使用期限が短く
2~3年以内で使い切る。
合成タイプよりも高価
こちらは2種類あります。
普通濃度と超濃度。
イベント用に普通濃度を
購入してみました。
サラサラして固形墨に近い
感触です。
水で薄めずに使えそうです。
【水墨画】合成膠タイプ
粘りがある
合成樹脂を使用している
膠が少ないため接着効果が弱い。
そのため固形墨に比べて
水に流れやすい
“表具屋泣かせ”とも言われます。
防腐剤が含まれるため
長期間使用できるが、
5~7年以内で使い切る
安価である。
乾きが早い
合成樹脂タイプは
固形墨との併用は出来ない
用途に合わせて選びましょう。
【水墨画初心者】墨液の使用感
応援旗を作るため
Tシャツの生地に
墨絵を描くということを
子供たちと体験しました。
- 薄墨もきれいに出て
墨絵らしく描きたい。 - さらに雨に濡れることも
想定して速乾性のある
墨液が望ましい。 - さらには作業時間も考えて
描いたあとにアイロンがけ
などの手間を省きたい。 - もうひとつ子供たちは
手で描くことも想定して
人体に安全かどうか。
そこでネット検索してから
メーカーさんに何度も電話で
質問しながら決定したのが
布書液(墨運堂) でした。
こちらは樹脂系で
布専用の墨液です。
固形墨とは明らかに
使用感は違いましたが、
薄墨もきれいに出ました。
濃淡、にじみの他にも
混色や重色も表現可能
速乾性も表示どおりで
布を選ばないで
描くことが可能です。
色も何色かあります。
私もTシャツに
描いてみました。
洗濯しても全く大丈夫です。
【水墨画】墨液使用後の道具手入れ
この布書液は樹脂製墨液です。
天然膠とは異なり、
弾力性の皮膜を作ります。
使用後洗わずにおくと
すぐに固まってしまいます。
出来れば専用の筆、
絵皿を使いましょう。
でなければすぐに洗うのを
忘れないようにしましょう。
筆はしっかり乾燥させる
ことも忘れないように
しましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
不思議な東洋の文房具であり
奥が深すぎますね‼
まだまだ墨の文化は
廃れることはありません。
初心者であっても
表現次第で墨の良さを
引き出せそうですよね。
何を描くかも大事ですが、
道具を知って使えるように
なることも大切です。
2.固形墨の種類と製造過程
3.墨液の種類と使い方
今回もご訪問いただき
ありがとうございました。