水墨画の名画鑑賞がより身近に楽しくなる|鑑賞のツボをご紹介します

名古屋城本丸御殿

こんにちは
水墨画家のCHIKAです。

いきなりですが、質問です。

Q:東洋絵画の作品は主に
      どのような素材に描かれているでしょうか?
A:主に絹や紙に描かれています。

 

Q:作品の劣化を防ぎ継承すためには、
  〇〇〇年~〇〇〇年周期で補修・修理が必要になります。
   さて、〇〇〇に入る数字は?
A:正解は100年~200年

 

超簡単でしたね😄

そのため
“今回が本物に会える
最後のチャンス!”
となってしまう作品だってあるのです。

その貴重な時間を
数倍楽しむために、

今回は、美術館或いは博物館で
水墨画の古典的名品・傑作品を
鑑賞するためのツボ・ポイントを
ご紹介したいと思います。

どうぞ最後までお付き合いください。

[水墨画]名画鑑賞の3つのツボ


まずはどの絵画にも共通した
鑑賞のツボを知っておきましょう。

①描かれた時代背景を知る
②絵画の約束事を知る
③リアルな体感が感動を生む

[水墨画]①描かれた時代背景を知る


西洋画であっても
東洋画であっても

描かれた背景があります。
宗教観、物語、思想etc

特に東洋美術、日本美術は
事前知識があるのとないのとでは
鑑賞に断然差が出てきます。

画家が描き残しておきたいと
筆をとったその意図や
メッセージを知ることで、
その絵画は一気に
雄弁に語りだします。

[水墨画]②絵画の約束事を知る


西洋画でも東洋画でも
それぞれ約束事があります。

例えば

西洋画は
・ヴィーナスにはバラが描かれる
・赤い服に青いマントは聖母マリア
・鏡は虚栄の象徴、賢明の寓意   etc
東洋画では
・隠者の寒山は巻物、拾得は箒
・[鯉の滝登り]で立身出世
・雪と筍で[孟宗]の説話
・文人の象徴、琴棋書画
・龍は水神、荒ぶる神の化身
・[四愛図]菊・蓮・梅・蘭を愛でた文人

などなどお決まりのパターン
描かれています。

[水墨画]③リアルな体感が感動を生む


東洋画はその材質・形状から
傷みやすいこともあり、
展示期間も短いものが多いです。

そのため機会を逃すと
次に出会えるのは
いつになるかわかりません。

チャンスがあれば
現地に足を運んで
鑑賞されることをお勧めします。

「えっ、こんなに小さな絵だったの?」

と本物を鑑賞して思ったことは
ありませんか?

逆もまた然りです。

有名な絵であれば、
図録や新聞やCMなどで
すでに目にしていることが
多いものです。

それゆえ、本物を見た時に
頭の中とのギャップ
感じるのですね。

色彩に関しても言えます。
初心者にとっては一番わかりやすい
ポイントのひとつだと思います。

私もよく図録やポストカードを
買い求めますが、本物との
色の違いにがっかりすることが
多々あります。

例えばお抱え絵師たちが使った
絵の具の色は目が離せないほど
素晴らしい発色をしています。

紙や墨に関してはいささか
会場で確認するのは難しいですが、
最高級の材料を使えた絵師たちの
作品からは何某か発するものが
あるはずです。

本物を鑑賞することは
図録などでは味わえない
リアルな楽しさ、面白さ、
発見が沢山あります。

[水墨画]名画鑑賞前に情報チェック


その絵画の情報を知るために
1.事前の展覧会情報をチェック
1.関連図書をチェック
1.展示会場のキャプションを見る
1.  音声ガイドの活用

などなど、
事前のチェック等をして
鑑賞に臨んでみてください。

大規模展の場合は
一度では見切れないほどの
展示数です。

せっかく足を運ぶのですから、

お目当ての絵を
何点かチェックして
重点的に鑑賞する、
など工夫して楽しみましょう。

【水墨画鑑賞】キャプションを読む


キャプションには
以下のような情報が
書かれています。

題名
作者:『○○○筆』『伝○○○筆』
材質、形状:紙本墨画、絹本墨画
国籍、時代:日本・江戸時代 17世紀
所有者:○○○美術館蔵、個人蔵
作品の詳しい解説文

【水墨画鑑賞】材質と形状を知る

[水墨画鑑賞]材質のいろいろ


“紙本墨画” 紙に墨で描かれた画
“紙本淡彩” 紙に淡く彩色したもの
“墨画淡彩” 墨画に部分的彩色したもの

絹(絵絹)
絹に描かれたもの
“絹本けんぽん墨画淡彩”

麻布まふ
麻に描かれたもの
“麻布墨画”

板(板絵)
扁額や絵馬、杉戸絵

金銀箔
全画面、金箔銀箔の場合
“金地墨画” “銀地墨画”

砂子
金箔を粉のように細かくしたもの
“金砂子地墨画”

切箔
金箔を正方形に切ったもの

[水墨画鑑賞]形状のいろいろ

・掛け軸
・屏風
・襖
画巻(絵巻)
・画帖
・扇面、団扇画
・衝立障子

これらの形状の中で
もっとも多く目にするのが
掛け軸です。

【水墨画鑑賞】掛け軸の山水画

引用:ウィキペディアより /周文 山水画

「水墨画といえば山水画」
あまり水墨画に馴染みのない方でも
そう答える方は多いと思います。

ではいったい山水画には
何が描かれているのでしょう?

中国であっても日本であっても
山水画に求められたのは心象風景です。

[水墨画鑑賞]山水画の見方

「世間から距離を置いた
隠者がひっそり気ままに
気に満ちた理想郷
暮らしています。

隠者の暮らす“庵”には
時折友人が訪ねてきます」

そんなストーリーが
山水画には描かれています。

描き手は隠者
友人や旅人は鑑賞者

その旅人(友人)に
なったつもりで、
下から上へ
山道を登っていくように
鑑賞してみましょう。

[水墨画鑑賞]山水画の縦長と横長

山水画の形としては
縦長の掛け軸と
横長の掛け軸があります。

縦長画面の掛け軸

ほとんどの山水画は
縦長の画面で
三遠法(遠近法)を使って
描かれています。

日本もこれにならって
縦長の画面がほとんどです。

横長画面の掛け軸

この形は縦長に比べて
圧倒的に少ないようです。

なぜなら本来の
画の形ではなく、
理由があって切断され、
軸装になったケース
多いからです。

よくキャプションに
『断簡』
と書かれているのがそれです。
切れ切れになった一部という意味です。

古くは室町時代、足利義満の頃。
権力者の床の間に
相応しい画が選ばれ、
新たな鑑賞の形として
楽しんだようです。

有名な作品では
『瀟湘八景図』伝牧谿筆

引用:ウィキペディアより/煙寺晩鐘図 断簡(国宝-畠山記念館蔵)

また、最初から横長の
掛け軸も存在します。

多くは実在の景色を描いたもの。

有名な作品としては、
『天橋立図』雪舟筆 

引用:ウィキペディアより/天橋立図 (京都国立博物館)

雪舟の記事はこちらからもどうぞ ⇩ ⇩ ⇩

【水墨画の歴史】涙でネズミを描いた<雪舟>/画聖の生涯と作品をご紹介

【水墨画鑑賞】襖絵の場合

引用:Wikimediaより

[水墨画鑑賞]襖絵を鑑賞するには

狩野派、長谷川派、
琳派などの大規模展を
美術館・博物館で見る

或いは
一般公開されている
禅宗寺院を拝観して
現地で見る方法があります。

美術館・博物館では
ガラス越しですが、
目線の高さに絵の位置を
上げて展示してある
所もあります。

つまり座った時の
目線に合わせて
襖絵を鑑賞するためです。

一方、寺院では
襖のある部屋には
直接入れないことが
ほとんどです。

廊下側から薄暗い部屋の
襖を鑑賞するので、
細かいところまで見るのは
なかなか難しいかもしれません。

それでも本来の使われ方で
鑑賞することは、
建物内部のつくりや導線など、
いろいろ目に入ってくる
情報もあるため、美術館などとは
違った面白い見方が出来ます。

どちらもそれぞれに
鑑賞の良さがあります。

昨今の寺院では
文化財保護のため、
高精細印刷技術で
複製品が製作されている
ところもあります。

本来設置されていた場所で
鑑賞できるようになってきました。

[水墨画鑑賞]実用的かつ装飾的役割

襖は衝立や屏風などと同じく、
日本家屋の中で、
間仕切りとして
使用されています。

それだけではなく、
保温や調湿効果もあり、
有害物質を吸収してくれる
機能も持ち合わせた
日本の風土に合った優れものです。

鎌倉時代には現代の
使い方が確立され、
襖絵の装飾的効果は
時代ごとに大きな
役割を果たしています。

禅宗寺院では水墨画を中心に。

時の権力者の建物には
絢爛豪華な金碧障壁画

また装飾性豊かで
前衛的ともとれるような
琳派絵師たちの襖絵。

現代の画家たちもまた
型に囚われない自由な発想と
個性的なアート感覚で、
伝統的空間を彩っています。

[水墨画鑑賞]珍しくなった和室空間


現代の住宅事情では
洋室や和洋折衷の部屋が多く、
純和室は珍しくなってきました。

そのため襖絵の機能も
肌で感じることが
難しくなったのでは
ないでしょうか?

大切な客人の目線が
亭主よりも背景の襖絵に
気を取られるほどであれば、
襖の機能が活かされているとは
言えなくなります。

歴史の中の絵師たちは
権力者等の意向に忠実に、
それ以上の効果を上げるべく
名品を生み出してきました。

まさに命を懸けた挑戦です。

その時代時代の亭主側の気分、
客側の気分に
なって鑑賞してみても
面白いかもしれません。

[水墨画鑑賞]襖絵の名品の数々

◎『花鳥図』狩野永徳筆(聚光院)
◎狩野了慶筆 襖絵(退蔵院)
◎『猿猴捉月図』長谷川等伯筆(金地院)
●『山水図襖』等伯筆(圓徳院)
●『竹林七賢図』海北友松筆(建仁寺)
●『雲龍図』海北友松筆 (建仁寺)
◎堂本印象筆 襖絵(仁和寺)

●は高精細複製品で再現されているもの

などなど

【水墨画鑑賞】屏風絵の場合

日本家屋の中の調度品の一つです。

風よけや部屋の仕切りに
使われただけでなく、
室内装飾に欠かせないものでした。

その画面に絵を描いたものを
“屏風絵”と言います。

[水墨画鑑賞]屏風絵の形状、数え方

屏風は一隻、二隻と数えます。

一つの画面を1扇。
その画面が数枚合わさって
構成されています。

六曲屏風であれば、六枚
四曲屏風であれば、四枚
二曲屏風であれば、二枚

一般的によく耳にするのが
“六曲一双”ですが、
これは六曲屏風が二つで
一組(一双)になっている
ことです。

[水墨画鑑賞]屏風絵の見方

右隻から左隻へ
見ていきます。

例えば『四季花鳥図』では
右隻の春で始まり、
左隻の冬で終わる
といった場面展開をします。

[水墨画鑑賞]屏風の使われ方

美術館、博物館では
伸ばして展示されている
屏風絵も多いですが、
本来屏風はジグザグに
折り曲げて使います。

そのため描かれている絵も
折り曲げられることで
遠近感や迫力が増したり、
見る角度によって
見え方が変わってきます。

美術館、博物館では
視線を低くして鑑賞するためにも
長椅子が設置されています。

休憩かたがた座った高さで
作品を鑑賞してみましょう。

[水墨画鑑賞]金箔屏風

安土桃山時代になると
襖や屏風に大量に金箔
使われるようになります。

この頃活躍したのが
室町水墨画を継承する一派、
狩野派です。

特に狩野元信
大和絵との融合を試みて
一つの形を作り上げました。

金箔の上に墨で描くのは
滑りやすく大変難しいのですが、
狩野派絵師の巧みな
墨線の描写は見応えがあります。

[水墨画鑑賞]屏風絵の名品の数々

◎『松林図屏風』長谷川等伯筆
◎『雲龍図屏風』俵屋宗達筆
◎『象と鯨図屏風』伊藤若冲筆
◎『黒白屏風』長澤芦雪筆
◎『竹梅図屏風』尾形光琳筆   などなど

【水墨画鑑賞】画巻(絵巻物)

引用:ウィキペディアより

絵巻物としては奈良時代から存在し、
平安時代~室町時代までは
盛んに作られました。そのほとんどが
白描画であったり、大和絵の着色画です。

面白いのは雪舟の“唐画”について
書かれた次のくだりです。

日本美術史用語における「絵巻物」とは、
日本で制作された、やまと絵様式の作品を指すことが多い。
中国で制作された同様の装丁の絵画作品は
「画巻」「図巻」等と呼ぶのが普通であり、
日本人作品であっても、雪舟『山水長巻』(毛利博物館蔵)
のような「唐画」作品については、
「絵巻物」と呼ばれないのが普通である。
引用:絵巻物/ウィキペディアより

では日本の水墨画としての絵巻とは?
ずっと時代が下ったこの方の作品では
ないでしょうか。
◎『生々流転』横山大観筆

『生々流転』横山大観筆  引用:ウィキメディア・コモンズより

水墨画と絵巻物の原理にのっとって
表現された超大作、全長40メートル
世界最長の絵巻
です。

【水墨画鑑賞】絵師の事情

今回の記事を書くにあたって
大いに参考にさせて頂いたのが
「日本絵画の見方」
榊原悟著(角川選書)です。
             表紙引用:「日本絵画の見方」榊原悟著(角川選書)

その中でも印象に残ったのが
長澤芦雪と英一蝶の頁。

[水墨画鑑賞]長澤芦雪

芦雪は応挙の名代として
南紀の無量寺に赴きます。

この南紀で描かれた
大量の障壁画のほとんどが、
描いているところを見せる
パフォーマンスによって
制作されたのではないか
と書かれています。

当時、都を遠く離れての旅路。
旅の途中の荷物は
極力減らしたことでしょう。

現地へ着いても
そこでの物資の調達はほぼ不可能。
旅先で何とかしなくてはなりません。

そのため絵の具はほとんど使われず。
すべてが墨画で製作されています。

引用:ウィキペディアより/「虎図」 芦雪 無量寺

[水墨画鑑賞]英一蝶

この絵師は江戸時代の
彩色の風俗画を描いた絵師で、
水墨画家ではありません。

流人となり生活も困窮する中で
墨も絵の具も
惜しみ惜しみしながら
描き続けたエピソードが残る絵師です。

引用:Wikimediaより/「落雷図」 英一蝶

絵師の置かれた事情を知ったうえで、
現在に残る作品を鑑賞することもまた
非常に興味深いことだと思います。

最後に

いかがでしたか?

西洋画であれば、
多少意味がわからなくても
色彩豊かな作品が多いので
それだけでも楽しめますが、

東洋画、水墨画は
色彩が乏しく、というか
白と黒で地味です。

古画になると黄ばんで
墨の色さえ判然としない
ものもあります。

暗い展示室の中ではなおさら。

キャプションだけ
読んでおしまいになることも
多いのではないでしょうか?

それはあまりにも勿体ない!!

今回の記事で
少しでも水墨画に親しんで
いただければと思います。

描き切れなかった
落款、賛、表装他も
絵画鑑賞の大切なツボです。

これらについてはまた
別記事でご紹介出来ることを
楽しみにしたいと思います。

展覧会情報

この展示会はすでに終了しております。

中国の長い長い歴史の中でも
とりわけ輝いている時代が
北宋時代ではないでしょうか。

なんと!
その時代の名品中の名品が
あるミッションを遂行した
近代日本の蒐集家によって
日本に現存し引き継がれているのです!!

特別展
北宋書画精華/根津美術館
2023年11月3日(金・祝)~12月3日(日)
休館日:月曜日
日時指定予約制

詳しくはコチラ⇩
根津美術館
https://www.nezu-muse.or.jp/jp/exhibition/

何千年の時の流れを凝縮した
奇跡の名品たちの出会い!
と墨絵を愛するものとしては
感じるところです。

まとめ

1.名画鑑賞の3つのツボ
2.名画鑑賞の前に情報チェック
3.掛軸、襖絵、屏風絵などの材質や形状、見方を知る
4.美術館他ではお目当ての作品を効率的に鑑賞しよう
5.絵師の置かれた事情から作品鑑賞も面白い

[水墨画鑑賞]年表

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ABOUT US

はじめまして 水墨画作家のCHIKAです。水墨画を独学で学んだ経験を活かし、全くの独学でも楽しめる方法を日々trial and errorで実践中。“変化・継承する素晴らしさを自然から学びたい”思いで里山暮らしを体験中。野鳥好き・猫好き。アクリル画にも挑戦中。京都生まれ