【水墨画の魅力】黒と白に魅かれるのはなぜ?これから始める方へ

こんにちは
水墨画家のCHIKAです。

NHK番組、美の壺
「黒と白の宇宙 水墨画」で、
水墨画の世界が紹介されました。

そこで今回は番組内容に沿って
筆者独自の解釈で、
水墨画を始めたい方、
鑑賞をもっと楽しみたい方
に向けてナビゲート
したいと思います。

【水墨画の魅力】線の多彩な表現


水墨画は“書画一致”
言われる通り、
たった一本の筆から
多彩な表現が出来て
筆法も書と通じるところ大です。

多彩な線とは言っても
日本での水墨画のイメージは
もっとぼんやりして
濃霧に包まれた山水を
イメージしませんか?

そんなに多彩に
線が使われているのでしょうか?

番組で書家の紫舟さんが
紹介されたのは、

雪舟の『慧可断臂図』(国宝)
室町時代の作品です。

慧可断臂図(斉年寺)/ウィキペディアより

この時代はまだにじむ紙が
使われていません。

なので緻密な線から
大胆な線まで作風によって
描き分けられています。

【水墨画の魅力】シンプルな線

「この画の中で特徴的な線は2つある」

「」は紫舟さんの言葉。

一つは達磨の線です。

「この世の人を描いている感じがしない」
「悟りを開いた後の人を描写する線」

確かに達磨のシンプルな輪郭線と
紙の白さが非常に透明感があり
際立っていて
目に飛び込んできます。

弟子の慧可の衣線の倍以上
ある太い線でしかも
仏画に見られるような
均一の線です。

達磨の顔の描写が細かいので、
さらに線が強調されて見えます。

【水墨画の魅力】険しい線

もう一つは険しい洞窟の線

洞窟の岩壁が複雑に
折り重なって見えるように
多彩な線と面、濃淡で
表現しています。

この背景表現もまた
達磨を際立たせています。

【水墨画の魅力】惹きつける線

一本の単純な線で
ここまで観るものを惹きつけ、
物語をより感じさせる。

面白いと思いませんか?

雪舟は当時の都で
一流の師匠から
都風の繊細な水墨画を
学んでいます。

結局その繊細な画風には馴染めずに
都から脱出してしまいます。

雪舟の記事はコチラから
 ⇩ ⇩ ⇩

【水墨画の歴史】涙でネズミを描いた<雪舟>/画聖の生涯と作品をご紹介

現在『画聖』として
雪舟の画を鑑賞出来るのは、
都の画風に決別して
雪舟独自の画風を模索
確立したからに他なりません。

『雪舟しか描けない線』

ということになります。

それは観る人を惹きつける
線になる、そう思って
間違いないと思います。

【水墨画の魅力】線と面の表現


水墨画家の大竹卓民氏は、
線と面について語られてました。

まずは線描きから
「」は大竹卓民氏の言葉。

「線描の発展は最初は均一の
線より始まり・・・」

「太くなったり細くなったり、
面的な表現と線的な表現の
構成で本当の線描になる」

それを巧みに筆で表現
していくのが画家の手腕

だそうです。まさに!

【水墨画の魅力】仏画の線


仏画と聴いて
どのようなイメージをお持ちですか?

「線描の発展は最初は均一の
線より始まり・・・」

これがヒントです。

仏画は鉄線描と呼ばれる
均一の線で描かれています。

均一と言っても
ただの輪郭線ではありません。

仏を描くうえで
陰影を付けたりする描き方は
本来仏画とは呼べないのです。

なぜなら仏画は写経と同じで
修行の一つであり、
均一な迷いのない線で描くこと。
それがこの世で功徳を
積めることになるからなんです。

線描画は仏画から始まり、
宮廷画や世俗画とも交わり、
だんだん筆法も変化して
きたという一つの流れが
あるわけです。

【水墨画の魅力】肥痩線


この仏画の鉄線描と比較出来るのが、
番組でも紹介されていた

国宝『鳥獣人物戯画』甲巻

この線の描き方を
肥痩線と呼びます。

太くなったり細くなったりの
変化をつけることで、
動きが出て強調されます。

有名なうさぎとカエルの
相撲をとるシーンを
思い浮かべてみてください。

どうですか?

とてもいきいきした
動きのある線ですよね!

番組では大竹卓民氏が
均一の線で模写して
比較されてました。

均一だとただの
輪郭線になります。

これも線描だけで
いかに臨場感を出して
面白い画を描くかの
工夫の進歩だと思います。

【水墨画の魅力】臨画オススメ

甲乙丙丁の4巻ありますが、
時代も画家も違います。

特に甲巻は名手とされる
画家の筆によるものと
言われてます。

この有名なシーンを
線描の練習に活用することは
オススメです。

実際日本画の先生方も
あらゆる線描の稽古になる、
と技法書の中でも薦められています。

上手く描けなかったとしても
線の種類がこれほど
たくさんあるのか! 
驚きの発見があるはずです。

線描がしっかり出来ることで
水墨画の表現も多彩になることは
確実です。

【水墨画の魅力】面表現の魅力

竹図 徐胃 フリーア美術館蔵/ウィキペディアより

次は面的表現です。

筆に濃淡の墨色を含ませて
一筆で面的に表現します。

番組では「笹」を例に
描かれてました。

笹や竹は四君子の一つ。

初心者から上級者まで
水墨画を稽古するものは
必ず習う題材です。

その中にすべての筆法が
含まれているということで、
教室でも活用されています。

【水墨画の魅力】側筆で描く

水墨画の筆の使い方は
たっぷり含ませて
筆の根元までを使います。

 

側筆

番組では山の岩肌を
表現するのに筆の側面を
使って描かれてました。

皴法しゅんぽう

と呼ばれる画法です。

東洋画の山石、土坡などを
立体的、量的に表現する
ための方法です。

本場中国では山水画の
発展とともにいくつもの
皴法が生み出されました。

水墨画といえば
側筆のマスターが欠かせません。

「側筆の面表現を取り入れて
線描で命を与える」

とは大竹卓民氏の言葉。

面と線によって
水墨画は命を与えられる
ことになります。

彩色画と比較すると
それは色のグラデーションであり、
物の軽重であり、
陰陽であり、明暗であり・・・

それがたった一筆から
生まれ出てくる!

そこに魅力を感じる人は
きっと多いと思います。

【水墨画の魅力】妄想もいいじゃん?


なんと番組中に
草刈正雄さんが
筆を持って水墨画に
挑戦されてました!

どんなものを描かれるのだろう?

と思っていたら、
描いたものが実像になって
紙の上に表れてました(笑)

でもこの妄想、
誰もが描くことらしく、
古典と呼ばれる本にも
絵本にも同等の話が
たくさん出てきます。

それくらいうまい画家が
実在したという設定で。

面白いですね!
妄想も良いですね!

最後の龍はうな重に
変わりましたが(笑)

水墨画って
滲む紙と墨、そして筆運びで
思わぬ形になることも
たびたび起こります。

偶然も作品のうち

一日経ってもまだ変化し
続けることもあるんです。

だから失敗した! 
諦められない(笑)

[水墨画の技法]初心者のためのわかりやすい基本的な用語の解説

【水墨画の魅力】墨に五彩あり


墨の文化が稀少となった
現代ですが、それでも必ず
どこかで耳にしている
言葉だと思います。

墨に五彩あり
墨に七彩あり

中国では
五墨六彩と言って
墨色の変化を表現しています。

墨もまた大陸から渡って
日本でも作られるように
なったものです。

【水墨画の魅力】墨の老舗

現在の墨の生産地は
奈良県(奈良墨)
三重県(鈴鹿墨)が有名です。

番組では
創業1577年の奈良の老舗、
古梅園さんが紹介されていました。

450年近く創業当時の製法で
墨造りをされているお店です。

その店構えだけでも
歴史を感じさせてくれます。

このお店の墨は主に
菜種油(最高級の油)などの
植物油の煤から造られています。

油煙墨と呼ばれています。

「墨の色は黒ですが、黒の中には
様々な色を含んでいます」
「・・・色彩豊かで水の加減によっても
幅広い濃淡を出すことが出来る」

彩色画で言う色のグラデーションは
この固形墨一つ、筆一本で
表現可能なんです。

墨に関してはこちらの記事にも
書きました。⇩ ⇩

【水墨画初心者】描くために知っておこう!固形墨と墨液のこと

以前筆者が古梅園さんで
墨を購入した際に初心者は、
何を基準に選べば良いか
尋ねてみました。

『基準はその方の好みになります。
おススメしたからといって、
必ずしも良いかどうかは別です』

初心者にとっては
なかなか選びにくいものですが、

  • 水墨画用
  • 茶墨、青墨
  • お手頃値段

といったところで
ご参考になさってください。

【水墨画の魅力】松煙墨について


前節では油煙墨について
書きましたが墨にはもう一つの
製法が伝わっています。

松煙墨しょうえんぼく です。
青墨せいぼくとも呼ばれています。

製法としてはこちらのほうが
先になります。

油分を多く含む赤松が使われます。

現在は原料不足もあり、
青の顔料を含ませている
墨もあります。

【水墨画の魅力】墨職人

番組では日本古来の
松煙墨の製法にこだわり
作られている方が登場します。

和歌山県の墨職人、
堀池雅夫さん。

赤松を燃やして煤が出来るまで、
およそ2週間

500㎏の赤松から採れる煤は
わずか10㎏

この煤を膠と練り合わせ
木型に入れて乾燥、熟成させる。
5~6年

手間暇かけるとはこのこと!

長い年月をかけることで
最高級の墨が完成します。

【水墨画の魅力】青墨

原材料や技術の継承など
稀少性がさらに増してきてます。

松煙墨(青墨)の
青味がかった天然の色味は
書家や山水画家の方々に
珍重されています。

【水墨画の魅力】墨を知って名画を観る

国宝 漁村夕照図/根津美術館蔵 ウィキペディアより

墨職人の堀池雅夫さんが
水墨画の名画を紹介されました。

国宝「漁村夕照図」牧谿

「墨は黒一色と思われがちですが、
実際は濃淡によって色が出てくる」

「そういうテクニックを感じながら
名画を鑑賞するのがとても楽しい」

なかなか水墨画の名画を
鑑賞するチャンスは少ないうえに、
図録(印刷)では
全く色味が違ってます。

人口色でないために
退色もあります。
紙の変色もあります。

けれど日本に渡ってきた
水墨画の名画は
その時代の権力者や為政者が
集めた最高級のものばかり。

ということは、
最高級の墨、紙、筆を使って
描かれているものです。

この次に鑑賞されるときは
是非墨色にも着目して
ご覧になってください。

【水墨画の魅力】すべてを描かないとは?


番組最後のツボは
余白の効果でした。

「余白とは書くが水墨画の余白は
余った白ではない」

学習院大学教授の島尾新氏が
名画を参考に
余白を水墨画の楽しみの一つ
として解説されていました。

『富士三保清見寺図』伝雪舟

「富士三保清見寺図」 伝雪舟 杉谷行直模写 清見寺蔵/ウィキメディアコモンズ

この図で雪をかぶった富士山は
紙の白色を活かしてます。

『山市晴嵐図』玉澗 重要文化財
出光美術館蔵

この画の真ん中あたりに
山を登る二人が描かれています。

まるで空中遊泳しているように、
二人の周辺には何も描かれてません。

これはタイトルからも
わかるように、
水蒸気が山を覆って
立ち上がってくる、
そのかげろうに包まれた
二人の旅人の様子。

「画家がすべてを描いている
わけではない」

「画家がやっているのは
観る人の想像力を刺激することだけ」

つまり観る側にも
イマジネーションを働かせる
という能動的な行為が必要。

雪舟も玉澗も日本人が
イメージしやすい水墨画
だと思います。

特に牧谿や玉澗の画は
どちらも中国画ですが、
日本の気候風土と
叙情性に訴える朧とした
イメージを持っていて
日本人が好きな水墨画です。

今度鑑賞の機会がありましたら、
余白にも着目して
その効果もご堪能ください。

【水墨画の魅力】やはりこの画!

『松林図屏風』右隻/東京国立博物館蔵/ウィキペディア

日本の水墨画の最高峰の一つであり、
到達点とされる画があります。

それが有名な
国宝『松林図屏風』長谷川等伯
東京国立博物館蔵

本物は毎年1月に
東京国立博物館で
短期間の展示がされます。

今回の番組中では
俳優で大のアート好きな
イッセー尾形さんが
東博の応挙館で高精細レプリカの
『松林図屏風』とご対面。

「意表を突かれました。もっと
描き込んでいると思いきや・・・」

たっぷりすぎる余白と
描き殴っている、
という印象を受けられてました。

この画でよく耳にする印象が、
近くで鑑賞すると
描き殴ったように見え、
離れて鑑賞すると
静寂に引き込まれる。

これは国宝ですが
下絵として描かれたものです。
絵師の凄みを感じますね。

イッセーさんは
「龍がのたうっている感じを
余白に受ける」と解釈、
妄想の楽しさを語ってました。

ここまで番組に沿って
私見も交えて水墨画の魅力を
書いてきました。

次は実際描くうえで
一苦労するのが
紙のにじみと描き方です。

そのことにほんの少し
触れたいと思います。

【水墨画の魅力】彩色画との違い


初心者からプロまで
まずは好みの紙選びに苦労します。

著名な画伯は
材料の配合まで吟味して
オリジナルな紙を使います。

水墨画の紙も様々ですが、
加工されていない生紙で描くと、
にじみの美しさが体感出来ます。

ですが描き順が大切になります。

【水墨画の魅力】水墨画の紙質

滲む紙(生紙)に
一度水分を含んだ墨がのると、
上から墨を重ねても
先にのせた墨が浮き出てきます。

これが画仙紙や中国宣紙の
生紙の特徴です。

描き直しが出来ないのと、
しっかりした下描きが
難しいところです。

水墨画を気軽に始めるには|初心者はまずこの道具を揃えよう

【水墨画の魅力】先濃後淡


彩色画のように
上へ上へ塗り重ねる画と
全く逆の描き方になります。

先濃後淡とは
その紙質を活かして
筆に含ませた濃い墨から
だんだん淡い墨へと
画面にのせていく方法です。

等伯の『松林図屛風』は
まさにこの方法かと思います。

まとめ

いかがでしたか?

今回は水墨画を取り上げた
番組内容にそって
その魅力を筆者なりに
書いてみました。

日本人もまた色を好む民族なんです。
けれどなぜそんなに
モノトーンの世界に魅かれるのか?

それは自然色であり墨色でしか
出せない色ということと、
湿潤な気候の中で視る
共通の美意識があるから
ではないかな?
と思うのですがいかがでしょうか?

今回もお付き合いいただき
ありがとうございました。

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ABOUT US

はじめまして 水墨画作家のCHIKAです。水墨画を独学で学んだ経験を活かし、全くの独学でも楽しめる方法を日々trial and errorで実践中。“変化・継承する素晴らしさを自然から学びたい”思いで里山暮らしを体験中。野鳥好き・猫好き。アクリル画にも挑戦中。京都生まれ