こんにちは
水墨画作家のCHIKAです。
固形の墨は乾いた状態で
触っても少しも汚れませんが、
磨って液になった状態で
衣類についたらもう取れません。
いったい何から出来ているのか?
硯は大変重たく割れたら
使い物にならず
どうしようもありません。
そして大変希少なものなのです。
さて、この二つの水墨画に
必要な道具をどのように
扱えば良いのか?
今回は墨と硯のことを
メンテナンス中心に
書きたいと思います。
目次
水墨画道具/墨の原料と特質
ほとんどの行程が手作業です。
少しでも墨のことを知っておくと、
墨選びや墨色の変化の美しさも
より理解出来て活用出来ます。
水墨画道具/墨の原料
墨は油煙(菜種油など)や
松煙から採った煤を膠で練り
固めたもののことで、
固形墨と言います。
練る時に香料を一緒に
入れ込んで作られています。
水墨画道具/墨の特質とは
最も良い墨の特質としては
一定期間(10年以上とも)寝かせて
よく乾燥していることです。
乾燥することによって
膠の分解が進むので、
のびが良く、墨色の変化が
美しいとされています。
水墨画道具/墨の種類
油煙墨と松煙墨の2種類があります。
水墨画道具/油煙墨
植物油では菜種油や
ごま油で作ります。
最上級なのが菜種油です。
煤の粒子が細かく均一なので
光沢があり深みが出ます。
墨の磨り口を見ると艶があり、
松煙墨との違いが明らかです。
水墨画道具/松煙墨
粒子の大きさが不均一です。
そのため黒から青みがかった色まで
墨色に幅があります。
青味がかったものは青墨と呼ばれ
煤それ自体が発色するものと
顔料の藍を入れて
着色するものとあります。
水墨画道具/中国墨と日本墨
もともとは中国から習った
墨の製法ですが、現在では
それぞれに特色を持って
作られています。
ざっくりした違いとしては
中国墨(唐墨)
・滲みが強く、墨の伸びがよい。
・名墨や古墨は寿命が長いが
膠力が弱い分、膠量が多いために
現在のものは割れやすい
日本墨(和墨)
・滲みが弱く、墨の伸びは
唐墨に劣る
・唐墨に比べて寿命は安定している
・膠力の強いものを使っている
道具、墨の選び方はコチラ ⇩
水墨画道具/膠とは
墨の製造で無くては
ならないのが膠です。
これが接着剤の役目をします。
動物の骨や皮などから
抽出された物質を使用します。
牛、豚、鹿、ウサギなど
動物性蛋白質であるため
極端に気温が低くなると
ゲル化してゼリー状になります。
墨を最適に磨るためには
一定温度(20℃くらい)が
必要です。
水墨画道具/墨の大きさと数え方
墨は1丁、2丁と数えます。
大きさは1丁型、2丁型。
1丁型の重さは15g
2丁型の重さは30gとなり、
重さを基準にしています。
水墨画道具/墨の香りについて
“幽香”というそうです。
奥ゆかしい仄かな香り
という意味。
でもこれは墨の香りではありません。
墨の原料は煤と膠です。
墨を固める時に
香料を入れているのですね!
膠の匂いを消すためと、
使う人の気持ちを
落ち着かせる作用が
あるのだそうです。
香料は龍脳(りゅうのう)や
麝香(じゃこう)といった
天然香料が使われています。
現在では合成香料も
使われているようです。
水墨画道具/墨の磨り方と最適角度
磨り方も角度も墨の能力を
発揮させて快適に使うためです。
水墨画道具/墨の磨り方
「病人や幼児に磨らせるのが良い」
とよく言われるとおり、
墨の重みだけで時間をかけて
ゆっくり磨るのが望ましいと
されています。
出来るだけ急がず焦らず
今から描く画の構図などを
考えながら、墨の香りを
楽しみながら磨っていきます。
水墨画道具/墨を持つ角度
磨っている時の墨の角度は
斜め45度くらいで、
磨り口を一方だけでなく
両面を使うように磨っていきましょう。
磨り口がV字型になると
角の欠けるのが防げます。
必ず“磨り口をV字型に
磨らないといけない”ことは
ありません。
V字になるとそれだけ硯との
接着面が少なくなるので、
量が磨れない、
と思われる場合もあります。
そこは好みで良いと思います。
磨り終えたら必ず磨り口を
柔らかい紙などでやさしく
丁寧に拭き取りましょう。
墨もまた水分が苦手です。
拭き取ったあとは桐箱に入れて
保管しましょう。
水墨画道具/墨磨り機
時間がない方、大作で大量の
墨が必要な時は重宝しそうです。
大量の粒子の細かい墨が
短時間で磨れます。
引用元:水墨画材屋 / 墨すり機
水墨画道具メンテ/残った墨のこと
水墨画は濃い墨を作ったあと
水で薄めて使っていきます。
なので練習の時は
思ったより沢山磨らなくても
描けるのですが、それでも
墨が残ってしまう時があります。
水墨画道具メンテ/宿墨とは
1日置いた墨のことを
宿墨と言います。
どんな状態になるかというと、
墨は磨った直後から
空気に触れて劣化し始めます。
そうなると墨色が悪くなり
きれいな滲みもなくなります。
さらに気温が高い夏場は
動物性の膠が腐りやすくなり
匂いも高くなります。
あえて宿墨を使う方も
いるようですし、
残った墨を稽古用に
冷蔵庫保管して使う
場合もありますが、
初心者はやはり処分して
新たに墨を作ったほうが
良いと思います。
知っておきたい!固形墨と墨液のこと
⇩ ⇩ ⇩
水墨画道具/硯の構造
墨を磨る場所を“おか”と言います。
墨を流し込む所を“うみ”と言います。
硯によって“おか”と“うみ”の
位置に違いがあります。
水墨画道具/硯は何から出来てる?
硯の材質のほとんどは石です。
陶器や瓦なども使われます。
現在の硯のほとんどは
中国産です。
水墨画道具/硯の種類
いくつか分類方法があります。
⑴ 実用か鑑賞用か
⑵ 石か陶器他か
⑶ 形による分類
⑷ サイズによる分類
⑸ 産地による分類
水墨画道具/サイズによる分類
号 | 呼び方 | 読み方 | 寸 | センチ |
1号 | 二五度 | にごたび | 2.5×1.5 | 7.5×4.5 |
3号 | 三五度 | さんごたび | 3.5×1.5 | 10.5×4.5 |
7号 | 四二 | しにすん | 4.0×2.0 | 12.0×6.0 |
8号 | 四平 | しひら | 4.0×2.5 | 12.0×7.5 |
11号 | 四五平 | しごひら | 4.5×2.5 | 13.5×7.5 |
12号 | 五平 | ごひら | 5.0×2.5 | 15.0×7.5 |
和硯の伝統的な寸法表記の一部です。
水墨画道具/中国産(唐硯)の主な硯
端渓硯(広東省)
歙州硯(江西省)
洮河緑石硯(甘粛省)
澄泥硯(江蘇省)
特に最高の石質を誇る
坑から採れる端渓硯は有名です。
中国硯は実用的でないものが
けっこうたくさんあります。
専門家に依頼すると
実用的に改刻してもらえます。
水墨画道具/国内産(和硯)の主な硯
雄勝硯(宮城県)
雨畑硯(山梨県)
龍渓硯(長野県)
赤間硯(山口県)
和硯の中で最も有名なのは
雨畑硯です。どの和硯も
採掘が非常に難しく希少です。
道具、硯の選び方はコチラ ⇩
水墨画道具メンテ/硯の洗い方
使い終わった硯を洗いましょう。
ぬるま湯で流しながら
柔らかいスポンジや綿花で
丁寧に墨を落としましょう。
特に硯の隅に溜まりやすいので
しっかり洗いましょう。
洗い残しがあると
次に使用する時に影響します。
残った墨のせいで
墨色が悪くなったりします。
水墨画道具メンテ/自然乾燥
洗い終わったら
清潔な布で軽く
水分を拭き取ります。
あとは自然乾燥します。
水墨画道具メンテ/墨が取れない場合
時間が経って隅っこに
墨がしつこく付いて
しまう場合があります。
そんな時は、しばらく
硯をぬるま湯に
付けておきましょう。
膠分がゆるんで
取れやすくなります。
水墨画道具メンテ/温度変化に注意!
硯は自然の石です。
急激な温度変化があると
割れてしまう恐れがあります。
温度変化の少ないところで
保管しましょう。
水墨画道具メンテ/硯の研ぎ方
ポイントを押さえて
長く使えるように
研ぎ方を覚えましょう。
水墨画道具メンテ/鋒鋩を立たせる
硯を作ることが出来る石は
ごく限られています。
その石の表面には
“鋒鋩”といわれる
微細な凹凸があります。
その鋒鋩があることで
墨が磨れるのですが、
何度も磨っていくうちに
鋒鋩が磨滅していきます。
見た目は硯の表面が
鏡のようにツルツル状態に
なっています。
磨滅すると墨がおりにくくなります。
そこで硯を研いで鋒鋩を立たせ、
墨をおりやすい状態にします。
水墨画道具メンテ/砥石が必要
硯専用の砥石(泥砥石)を使います。
書道専門店で購入出来ます。
水墨画道具メンテ/研ぐ時の注意点
墨がおりにくくなった時だけ
研ぐようにしましょう。
硯の表面を傷つけないよう
“おか”に水を注ぎます。
墨を磨る時より少し多めです。
力を入れずに研ぎます。
砥石の粉が水と混ざって
黄土色になり、どろどろに
なってきます。
この状態で完了です。
まんべんなく研いだら
ぬるま湯でしっかり
洗い流します。
洗い残しのないように
しっかり洗いましょう。
あとは布で軽く水分を拭き取り
自然乾燥させて保管します。
水墨画道具メンテ/中国産硯の注意点
中国産硯(唐硯)の中には
硯の表面に“蝋”が
塗ってある場合があります。
そのままでは墨をすることが
出来ませんので、
硯専用の砥石を使って
蝋を落としましょう。
水墨画道具メンテ/硯に傷
おかに傷が付いてしまった場合は
硯専門店に問い合わせてみましょう。
修復は可能です。
割れてしまった場合は
修復は難しくなります。
くれぐれも落としたり
急激な温度変化のあるところ
での保管には気をつけましょう。
まとめ
初心者のうちからしっかり
墨や硯のメンテナンスを
心掛けていることは
とても大事なことです。
それは作品の良し悪しにも
しっかり表れるからです。
1.硯の構造とお手入れ、保管の仕方
道具の特質を知って
長く愛用するためにも
効果的に使いましょう。