こんにちは
水墨画作家のCHIKAです。
水墨画作品を見た鑑賞者の方は
よくこんな質問をされます。
「この絵は下書きするのですか?」
日本画や油彩画と違って
水墨画はどう見ても
下書きをしているふうには
見えないと思います。
実際どうなのでしょうか。
この記事では水墨画を
描くにあたって
下絵と下書き(アタリ)は
どのように考えればよいか
下絵と下書き(アタリ)の
一つの方法を“例”として
書いてみたいと思います。
そしてあらためて
水墨画は和紙に描くべきか?を
考えてみようと思います。
目次
【水墨画の描き方】下書きの捉え方
まず結論から言いますと
水墨画は下書きを
しないのが一般的です。
水墨画は下書きをして
きっちり描くというよりは、
精神性を表現する画である
ということです。
例えば
墨を羽散らかして出来た
偶然の形を
絵にしていったり、
少ない運筆で
対象物を表現し尽くしたり
あえて描かないことで
描く以上の効果を出したり、と。
偶然性や気迫を込めるのに
下書きの意味はどうでしょう?
あまりなさそうですよね。
一発勝負!!
ということになります。
技巧的な上手い、
下手の問題ではなく
むしろ下書きしないほうが
「~らしさ」を
表現しやすいのです。
[水墨画の描き方]下絵を使う
そうは言っても
下書きなしでいきなり描くのは
初心者にとってはハードルが
高すぎるでしょう。
少し道具に慣れるまで、
あるいは描きたいものを
表現するために下書きをしたい
と思われた場合、
下書きしても
それにたよりきらない!
ということだけは
是非、意識しておいて
欲しいと思います。
どうしても下書きや
下絵を置いて描いていくと、
「写している」感覚になります。
その時点で水墨画で大切な
勢いや気迫が失われていきます。
日本画の場合は着色するため
しっかり下絵を準備することが
大切になりますが、
水墨画は描いたそのままが
作品の状態になります。
「写し」にならないように
するためには
下絵はきっちり描いても
下書き(アタリ)は目安程度に
ここは初心者の時から
意識しておきたいですね。
いろいろ工夫を
重ねていきましょう。
それでは下書きの方法を
ご紹介したいと思います。
出来るところから
チャレンジしてみてください。
[水墨画の描き方]下書き方法①
本紙として選ぶ和紙は
慣れるまでは
出来るだけ
にじみの少ない紙を
選びましょう。
こちらでは少しにじむ紙での
説明になります。
にじみはきれいに出ますので
運筆が少し早くなれば
初心者でも描きやすい紙です。
①では最初から最後まで
下絵を外さずに描く方法です。
[水墨画の描き方]題材を探す
例えば花びら(線描き)と
葉っぱ(面描き)のように
鈎弥法(線描き)と没骨法(面描き)の
両方が描ける素材を探します
描きたい手本がある場合
- 手本をコピー(拡大コピー)する。
- 線描きで描くところ(鈎勒法)、
- 輪郭線を描かないで描くところ(没骨法)
を確認しておく
手書きする場合
スケッチ帖から下絵を選び
トレース紙で写し取ったりして
好きな絵を用意する
自分で撮った写真や
インスタから着想得るなど
アプリを利用する方法は
いろいろありそうです。
今後、私も試してみて
ご紹介出来ればと思います。
お手本になりそうな方法があれば、
いろいろ試してみてください。
[水墨画の描き方]下絵の道具
下絵の紙は多少厚みの
あるものにしましょう。
薄い和紙に水を使うため
下絵の紙によっては
水を含んで非常に
描きにくい状態に
なると思います。
濃墨か油性ペンで
描いていきましょう。
水性ペンは流れるので
避けます。
上から和紙を置いても
透かして見えるように
しっかり濃く描きます。
それでは本紙(和紙)に
写し取るところを
画像で確認していきます。
[水墨画の描き方]下絵を描く
一輪の椿と壺を描きます。
[水墨画の描き方]本紙に描く
- 和紙を下絵の上に置き、
しっかり文鎮で押さえます。
- 線描きの部分から描きます。
花びらとしべ、茎 - 線描き用に細筆(削用筆他)を
用意します。 - 筆に淡墨を付けて
余分な水分を布巾で取り、
穂先に中墨を付けます。 - 線描き部分は濃墨ではなく、
薄墨~中墨で描いていきます。
線描きであっても多少の
濃淡がつくほうが面白いです。 - 濃淡が難しい場合は
線の描き方を意識して
描いていきましょう。
- 葉っぱを没骨法で描きます。
2回の筆運びで1枚の葉っぱを
表現します。三墨法で描くと
椿の肉厚な葉っぱが
表現出来ます。
- 最後に壺を描きます。
中墨~やや濃いめの
三墨法で調墨します。 - 少し筆を寝かせると
壺の丸みと立体感が出ます。
[水墨画の描き方]下絵をお手本に
- すべて描き終えたら
下絵を外します。 - 下絵を本紙の左横に置いて
見比べてみます。 - 足りないところ他を
下絵を見ながら
加筆していきます。
[水墨画の描き方]①のポイント
いかがですか?
描き易かったですか?
描きにくかったですか?
今回使った本紙が
しっかりした和紙なので
それほど描きにくくも
なかったかもしれません。
①の方法のポイントとして
- まず全体をよく見て
どこから描いているか - どこから描けば描きやすいか
を確認する - 描く順番を意識する。
水墨画は筆跡がつきます。
最初に入れた筆の跡が
しっかり浮き出るので
描く順番がとても
大事になってきます。
花びら、葉っぱ、と
パーツごとの練習も
していきましょう。
[水墨画の描き方]下書き方法②
②は下絵を途中で外す方法です。
[水墨画の描き方]下絵を作る
①と同じ方法で
下絵を作成します。
[水墨画の描き方]アタリの道具
・薄墨、細筆(面相筆か削用筆)
・木炭と羽箒
このいずれかの組み合わせを
用います。
[水墨画の描き方]アタリをつける
- 下絵の上に和紙を置きます。
- 今度は下絵を写すのではなく
本紙に下絵を頼りに
アタリをつけていきます。 - 全てを写さないこと。
- 薄墨はごくごく薄く
- 木炭ならあとで
羽箒で消せます。
多少、黒ずんだりします。 - 薄くアタリを取ったあとは
すぐに下絵を外します。
[水墨画の描き方]下絵はお手本に
外した下絵はお手本として
見やすい位置(左)に置きます。
滲まない紙であれば
それほど問題なく
簡単な下書きやアタリで
描き進めると思います。
多少のにじみがある紙の場合は
出来るだけアタリは少なめに
とっていきましょう。
[水墨画の描き方]下絵カット集
[水墨画の描き方]下絵を増やそう
身近にあるものを
写真に撮ったり
スケッチするなどして
どんどん下絵にして
増やしていきましょう。
[水墨画の描き方]臨画に挑戦
臨画とはお手本を横に置いて
忠実に描いていく方法です。
忠実にと書きましたが、
細かく描くのではありません。
“画の真意をくみ取る”
ことが大事です。
見たまんま写すのではない
ということですね。
①のポイントのところで
示したのと同じで、
全体を見て
どこから描くかを確認して
順序良く描き進めます。
構図、余白、筆勢などを
学ぶには格好の学習法に
なります。
描きやすい単純なものを
選んで臨画してみましょう。
水墨画の描き方/プロの方法
プロの方々はどのような方法で
作品を描いていくのでしょう。
あくまで一例です。
- テーマを決める
- 構図や配置を考える
静と動、軽と重、
省略と強調の仕方、など
画に必要とされる表現を
どう表していくかを練る。 - 大作ならばその縮小版を描いて
バランスを考える - 本紙に木炭などで軽く簡単に
アタリをとっていく - 頭に構図を描きながら
墨の調子などを見ながら
偶然性を大切に
手を止めずに描いていく
プロも基本的なことは
初心者と同じことをしています。
プロとの違いは
自分らしい表現の工夫が
どれだけ出来るかの差だと
言い切りたいと思います。
[水墨画の描き方]和紙で描くもの?
[水墨画の描き方]表現に大事なこと
「水墨画の用紙は和紙でなきゃ
ダメですか?」
という質問も結構多いです。
「下書きも難しいのなら
いっそ和紙以外の
描きやすい紙を探そ!」
そう思われるのも
無理はありません。
作品の出来栄えは
半分以上、紙の選択による
のではないか?
と私見ですが思ってます。
悩ましいところです。
[水墨画の描き方]オススメ和紙
にじみの少ない紙ならば
楮紙がオススメです。
にじみを止めるために
ドーサ引きを施した和紙も
下書きが出来るので
描きやすい紙です。
ただし、ドーサ引きした
紙の場合はにじまないので
技法も工夫が必要です。
これらの紙で練習を
重ねていきましょう。
何と言っても
それが唯一の近道で王道です。
[水墨画の描き方]洋紙との類似点
現代では和紙より
はるかに洋紙のほうが
馴染み深く、使いやすい
イメージがあります。
昨今では水彩画紙で
水墨画作品を描かれる方も
多くなっているようです。
紙質にもよりますが、
保水性、耐久性が良く、
にじみ・ぼかし・かすれが
きれいに表現出来るようです。
墨の濃淡やぼかし、にじみ
いわゆる水墨画の特色が
美しく表現できるのであれば
言うことなしですね。
私も挑戦してみたいと
思ってます。
[水墨画の描き方]にじみに憧れる
ヨーロッパでは
ジャポニズム現象が
起きて久しいです。
「日本の書画を鑑賞してから
洋紙とインクを使って
チャレンジしている」
そんなアーティストも
増えているようです。
和紙も墨も彼らの文化には
ないものです。
アーティストなら
挑戦してみたくなる
不思議な絵画であるのは
間違いありません。
[水墨画の描き方]和紙だからこそ
水墨画はそもそも
和紙という素材が
あったからこその
絵画様式です。
1.和紙が存在した
2.和紙に合う技法が生まれた
3.和紙だからこその表現が生まれた
ということです。
にじむ和紙なら
没骨(付立て)表現
にじまない和紙なら
鈎勒法
たらし込み、
ぼかし表現 etc
と和紙の特徴
を生かすからこその
表現法です。
名だたる巨匠は
にじむ紙に手こずりました。
そのため描きたい作品の為に
独自の配合によって
紙を作り出しました。
[水墨画の描き方]撥墨法と破墨法
和紙を使った水墨画に
「撥墨法」という
表現方法があります。
墨をはね散らかして
偶然に出来た形で
表現していく技法です。
にじみ、濃淡の変化が
予測不能な美を作り出す。
和紙あればこその面白い
表現方法です。
「撥墨法」とよく似た技法に
「破墨法」があります。
先に描いた墨が
乾ききらないうちに
濃さや水分量の違う
墨を重ねて、先に描いた
墨の調子を変えて
表現する方法です。
文章だとまどろっこしいですね。
撥墨法との違いが今ひとつ
よくわかりません。
実際、雪舟の「破墨山水図」も
近年では撥墨法を用いて
描かれているのではないかと
言われています。
この方法もまた
和紙の特徴を生かした
和紙あればこその
表現方法です。
[水墨画の描き方]精神性
水墨画は精神的、
心理的描写が強い絵画です。
それゆえぶっつけ本番で
描くほうが、より画に
迫力が出るのです。
特に禅画はそれが顕著に現れます。
上手い下手関係ありません。
[水墨画の描き方]何を表現したいか
やはり何をするにしても
憧れと目標を持つことが
作品への近道ですし
一番大切なことです。
しっかり細かく描きたいか
にじみやぼかしを使って描きたいか
「○○風の作品」に仕上げたいか
そのために下書き、下絵が
必要であれば積極的に
活用していくのも
ありだと思います。
まとめ
今回は水墨画に
下絵や下書きは必要か?について
書いてみました。
日頃の練習にほんの少しでも
参考になれば幸いです。
2.初心者の為の下書きの方法
3.プロも基本は同じ。 表現の工夫に知恵を絞ろう
4.水墨画の紙は和紙に限らない